超次元にはよくある光景
それを面白く思わないのはやはり虎丸だ。豪炎寺が一時沖縄の土方家に身を寄せていた事をついこの間知ってから、土方の事を恋敵として敵対視している節があった。
それはもちろん鬼道だって同じなのだが、エイリア学園の一件で豪炎寺がキャラバンを離れていた間に豪炎寺がどれだけ辛い思いをしていたかという事を理解しているからこそ、豪炎寺が土方と距離を詰めるのはやむなしとも思うのだった。
「ねえ豪炎寺さん、俺とタイガーストームの練習しましょうよー!」
豪炎寺の右腕に抱きつきながら甘え声を出す虎丸。豪炎寺は年下にかなり優しいので、こうすると大抵の事は聞いてくれる。それは事実である。虎丸にとっては切り札とも言えた。
しかし。
「豪炎寺君、最近クロスファイア撃ってないよね。たまには僕とも練習してほしいな」
「……そういえば、そうだな」
豪炎寺が優しいのは、虎丸相手だけではなかったのだ。
弟の事で一時期かなり不安定な状態にあった吹雪。ボールを蹴り込んだりした事もあったけれど、豪炎寺にとっては彼もまた庇護対象になっていたのだった。吹雪が拠り所としていた染岡がいないというのも、多少影響している。
「じゃあ吹雪と……」
「嫌です!俺と練習して下さい!吹雪さんは土方さんとサンダービーストしてればいいじゃないですか!」
「豪炎寺、それを言うなら俺とツインブーストFだって最近してないじゃないか。ここはひとつ俺と……」
「だから!鬼道さんは不動さんがいるじゃないですか!」
「…………」
面倒くさいな、と豪炎寺は思った。口に出せばもっと面倒なので黙っていたが。
「……とりあえず、俺は食器を片付けたいんだが手を離してくれないか?」
「豪炎寺さんが俺とタイガーストームの連携技をやってくれて、ついでに今晩はうちに泊まりにきてくれるって約束してくれたら離します!」
「外泊は久遠監督の許可が下りるかわからないから約束できない」
「じゃあ練習だけでも!」
「虎丸、豪炎寺が困っているだろう。離してやれ」
「通訳マントさんは黙って監督の通訳してて下さい!」
「!?」
可愛い顔して割とやる小学生の辛辣な言葉に鬼道が思わず動きを止めた。
「豪炎寺、練習に付き合ってやればいいんじゃねえのか?午前中に虎丸、午後から吹雪とかでいいじゃねえか」
「土方……その、俺はお前とでも……」
「え?」
「いや、なんでもない。その案使わせてもらうぞ」
恥じらいの表情を一瞬だけ見せたものの、豪炎寺はすぐにいつもの表情に戻った。土方は一体何の事か分からなかったようだったが、虎丸と鬼道、そして吹雪はばっちり理解してしまった。知らぬは本人ばかりなり、が今更豪炎寺にブーメランである。
「とにかく!午前中は俺に付き合ってくれるんですね!?」
「あぁ、そういう事になるな」
「それじゃあこんな所でもたもたしてられないじゃないですか!早く片付けてグラウンド行きましょう!」
「俺に片付けをさせなかったのはお前だろう」
豪炎寺の突っ込みをよそに虎丸は手早く豪炎寺と自分、二人分のトレイを持って片付けに行ってしまう。家業で鍛えられた技である。やれやれ、と肩を竦めつつも、豪炎寺は残り三人に「お先」と告げて虎丸を追いかけた。
「……土方」
「ん、何だ鬼道」
「……どうして、俺へのフォローは…………いいや、何でもない」
鬼道は沈んだ声でそう言うと、静かにトレイを持って席を立つ。ゴーグルの下で僅かに涙を流したその時、廊下から虎丸の大きな声が聞こえた。
「嫌です!嫌です豪炎寺さん!俺と練習するって約束したじゃないですか!俺の方が先約なんです!それなのに今更割り込んでくるなんてキャプテンずるいです!ずーるーいーでーすぅぅぅぅ!!」
イナズマジャパンの、いつもと変わらない朝の光景である。
作品名:超次元にはよくある光景 作家名:タカツキ