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一つの忘憂と、

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歩きながら、コイツになら話しても大丈夫な気がして、なんとなく喋りだす。アントーニョやフランシスのバカみたいに、言いふらすことは無いだろうと。
本田にばかり身の上話をさせて、気が引けてしまったのかもしれない。

「本当に昔から、どこに行っても必ず一発で目的地にたどり着けた例がない。どこかで道を間違ったり目印を見間違えたりして、迷う。土地勘ってのがまったく無いんだな」

そう考えると、弟には随分助けてもらっていると気付く。今度、美味いジャガイモ料理の店にでも連れて行ってやろう。

「それで、先ほども迷ってらしたんですね」

いたずらっぽく笑う本田に、肩を竦めて見せることで肯定に変える。

「正直お前が来てくれて助かった。もう少しで、日が暮れても家に帰れなくなるところだったからな」
「大げさですね」
「それが大げさじゃないんだよな」

思わず顔を見合わせてしまう。

「……思わぬところで、思わぬ人と思わぬ秘密の共有をしました」
「俺もだ」
「では私たちは、同士、ですね」
「同士か。そりゃあいいな」

ケセセ、と笑うと、本田もふふ、と笑う。
たまには、迷子になるってのもいいな。本田と会うまでの心配事なんか全部吹き飛んで、俺は呑気もそう思った。

「それではギルベルトさん」

本田が犬を放して、俺に手を差し出す。

「なんだかよく分かりませんけど、どうやら私たちは同盟締結ですね」
「秘密の共有のか? 面白ぇな」

差し出された右手に、俺の右手も重ねる。

「たいした秘密ではないところがまた」
「そこがいいんじゃねえか!」

握手したまま、近所迷惑も考えず二人で笑いだす。
まさかまともに喋るのが初めてな弟の友人と、こんな風に意気投合するとは思ってもいなかった。だがそれは本田も同じようで。
見知らぬ場所で見知った人間と、不可思議な同盟が締結された。
とりあえず、

「明日からもまた、よろしくな」



(二つの掌)
作品名:一つの忘憂と、 作家名:きじま