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FIZZY DRINK

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 静寂の中に響く虫の声。ぽたり、ぽたりと、蛇口から水滴が落ちてきて、水がじわじわと溜まっている。そこから大きな洗面器で水を汲んで、十代は顔を洗った。その背中には使い古したリュックサック。中には様々な道具が入っている。
「十代、「借り」に行くぞ」
「ああ、ヨハン」
 同じように背中にリュックを背負ったヨハンが、くい、と薄暗い廊下の向こうを顎でしゃくったのを見て、十代は静かにうなずいた。
 そして洗面器……内側が何故かネジのようになっている……の裏側をじっと見つめる。
「こか、こーら?」
 どんなんだろ? と気にしながら使いこんだ洗面器を水道脇に置いてヨハンの元へと駆けつけた。

 この家は、以前誰かが住んでいたものを借り受けたものだった。
 何があったのかわからないが、外観がそのまま残っていたことで二人はすぐに住み着くことができた。いつもなら家の材料となるものを調達するまでは虫たちと寝所を共にしなければならなかったところだ。
 それから、捨てられた材料で家具を作り、食料を森から調達してくる生活が続いて、ようやく仕事をすることができるようになったのはここ1〜2年のことだった。
「こんな道も全部残しておいてくれて、助かったな」
 木と木を継ぎ合わせただけの道だが、これがなければ上に進むことが出来ない。一歩一歩確実に踏みしめて昇っていく。十代の一歩先を進むヨハンが、ぴたりと立ち止まった。
「ここでいいか」
 かぎ爪のついたロープを上部の木めがけて投げると、爪がうまい具合に引っかかった。ロープを握りしめて壁を蹴り上げながら登っていったヨハンは、今度は長いロープを木に結びつけた。
「相変わらず器用だなー、ヨハン」
「へへっ。さあ、十代も登ってこいよ」
 一通り感心した十代も、ロープを伝って登り始める。
 最後の一歩の手前で、ヨハンの腕が十代の二の腕を取って持ち上げる。
「よっと」
「サンキュ、ヨハン」
 木に登って、二人で見上げると、大きな天上が間近に見えた。目的地はもうすぐだ。
「……今日のえものは?」
「小麦粉とエビだ。そしたらエビフライが作れるぜ!」
「だったら、ティッシュペーパーよりキッチンペーパーのがいいな。あと油と醤油と、塩もあるといいな」
 いろいろと欲しいものが出てきてしまう。十代は首をブルブルと横に振った。
「ちゃんと保存すれば、エビも小麦粉も保つだろ? 小麦粉とエビと、キッチンペーパーに絞ろう。塩と油はまだあるし、醤油はあとでもいいさ」
「そうだな」
 えものを決めて、前の住人が打ち付けたらしい階段を登った。大きな木の壁を足場を頼りに更に昇り、たどり着いたのは。
「やっと着いた」

 視線の先には様々な調理器具が整然と置かれた棚、シンクの上にはやはり整然と調味料が並んでいる。
 視線を下に降ろせば、登ってきただけ下に見える床が、薄暗いなか年季の入った木目を走らせていた。
 彼らが立っていたのは、年代物の食器棚の中程だ。

 二人が注意深く辺りを見回せば、シンク手前の作業台の上に、ティッシュの箱が見える。
「あれかな?」
 ヨハンがぱちん、と指を鳴らせば、自分よりはるか大きな生きものが現れて、「るびー!」と鳴いた。
「ルビー、頼むぞ」
「るび!」
 ルビーと呼ばれた獣が尻尾をふるりと揺らすと、尻尾についた紅い宝玉が光り輝いて、周囲を照らした。
「さ、早く行こうぜ」
 ルビーは留まり続けて照らしてくれるようだ。ヨハンと十代は台所へと繰り出す。
 まずは、かぎ爪を足元にぐっと差し込んでロープを伝って降りていく。降りた後は素早く作業台の下へ移動して、二人頷き合う。
 ピィーッ!
 十代が指笛を鳴らすと、どしどしと足音が聞こえてきた。
「お、来た来た」
 現れたのは、この家の飼い犬だった。
 以前「借り」に来た際、危うく家の人間に見つかりそうになったのを、長い毛で守りかくまってくれたのだ。二人にとってはとても大きな犬だが、人間にとって小型犬だという彼は、気性はおとなしいらしい。
「頼むぜ」
 犬は無言で作業台の脚につかまり立ちをする。二人は犬の足から背中へ、そして頭の上まで登って再びかぎ爪を上へと放り投げた。しっかりと木製の作業台にひっかかったかぎ爪についたロープで、作業台に登る。
「やっぱりこれか!」
 二人で駆け寄ったティッシュ箱のようなものには、キッチンペーパーが入っていた。
「これだけあれば1年は余裕だな」
「ああ」
 二人でキッチンペーパーの端と端を持って、一気に引っ張りあげる。シーツより大きくてごわっとした質感が二人を襲ったが、転ぶことなく端を持ったまま箱の上から降りた。それから、二人で力を合わせて折りたたんでいく。
「よし! あとは小麦粉とエビか!」
「しぃ!」
 さすがに声が大きかったようだ。十代の大声をヨハンが諫めつつ、次の目的のものを探す。
「……お、なんだ、すぐそこにあるじゃん」
 キッチンペーパーの箱の裏側に死角になっていたから気づかなかったが、よく見れば小麦粉とエビの入った袋が一緒にまとめられていた。
「罠かな……」
 まるで「私を借りて」と言わんばかりの小麦粉とエビに、ヨハンの眉が顰められたが、
「誰が罠をしかけるんだよ。偶然だろ?」
 十代は気にした風でもなく、小麦粉とエビを留めていた洗濯ばさみを注意深く外した。あとでまた戻さなければならない。袋をあけたとたんただよってきた粉にむせそうになりながら、十代は容器を小麦粉に差し入れてすくいあげる。きちんと取れたことを確認して、しっかりとフタをした。
「十代、エビは何個借りていく?」
「んー、10尾くらいでいいんじゃないか? あんまり借りていくとばれるだろ」
「わかった」
 袋から、エビを10尾とったヨハンが自分のリュックサックに入れていく。十代も小麦粉の入った容器をしまおうとして、指先に触れたものに気がついた。
「結局使わなかったけど、いいか」
 仕事を終えた二人は立ちあがって、元の通りに洗濯ばさみをとりつける。
「これ、すげえ力だよな」
 いつもながら、この洗濯ばさみには苦労させられる。下手すればどこかに飛んでいって、それで自分たちの存在に気づかれかねないのだ。
「さ、早く行こうぜ!」
「ああ」
 再びかぎ爪ロープを伝い始めると、犬が察して再び作業台の脚につかまり立ちをした。
 いつものように犬の頭から尻尾まで滑り降りようとした十代の目に、見覚えのあるものが飛び込んできた。
「ヨハン!」
「ん?」
「あいつも借りて行こうぜ!」
 十代が指さした先には、ヨハンも見覚えのあるもの。しかし、ヨハンは首を振った。
「ダメだろ、アレを借りてったらすぐばれるぞ」
「違うって。中身だよ。俺、ビン持ってるからさ」
 な? 必死に頼んでくる十代に、ヨハンも折れた。
「……俺も気になってたんだ。半分くれよ」
「やった!」

 犬の背中から見えた者は、大きなビンだった。
 やはり犬が察してビンの前に腰を降ろしてくれたことで、注ぎ口にはすぐに近づくことができた二人は、いつも洗面器として使っているものが、ビンのフタだったことを知る。
「だからネジがついてたのか」
 二人でフタをまわし開けると、中には醤油のような黒い液体が入っていた。
作品名:FIZZY DRINK 作家名:なずな