FIZZY DRINK
「醤油じゃないか?」
「……匂いは違うみたいだけど。まあ、汲んでみるよ」
小さなコップのついたロープを液体へと落としてみる。
「しゅわって言ってるな……」
不安げな顔をしたヨハンに十代は注意深くロープを引き上げた。
「戻ってから飲もうぜ」
自分が持ってきたビンのコルク栓を開けて、こぼれないように液体を移していく。
「やっぱりこいつ、しゅわしゅわしてる……」
「どんな味なんだろうな」
二人でフタをして、犬の背中を降りた。
「ありがとうな!」
犬がのしのしと台所から去っていくのを見送って、二人は食器棚の奧へと消えていった。
「今日の「借り」は大成功だったな!」
早速、エビを調理し始める二人。エビに溶いた小麦粉を付け、食パンの耳を砕いたものをまぶして、油に投入する。
「米も炊きあがったぞ」
ヨハンが開いた釜の中には、砕いた米がほかほかと湯気を立てている。
「こっちも揚がったからテーブル用意しててくれ」
「了解」
ほかほかのごはんと、揚げられたエビフライ、それから、コップの中には謎の液体。
そんな、遅い夕食が始まった。
「いただきます!」
ごはんも、エビフライもとても美味しい。
「んぐんぐ、これ、いいな!」
「罠じゃなくて本当よかったな!」
どうして、欲しかったものが二つとも一緒に置いてあったのかは気になるが、借りてこられたからよしとしよう。
腹もふくれたところで、お互いコップの中身をじっと見た。
「とりあえず、舐めてみる」
十代が行儀悪くコップの中に指を爪の手前までつける。指先で、何かが弾ける音がした。その触感に驚きながら、指先に舌を近づけると、
「うわっ!」
「十代!?」
びりっ! と舌に電撃が走った。その後感じたのは強烈な甘み。
「びりっとくるけど、甘いぞ!」
「そうか?」
今度は二人、頷き合ってコップに口をつけた。
「うわあっ!」
「ひぃっ!」
二人の口の中でバチバチと空気が弾ける。
「バチバチくるけど、うまいな」
ちょっと涙目のヨハンがふたたびコップに口をつけて、びりびりと身体を震わせている。
「ああ! ……でも、俺たちには洗面器のフタでちょうどいいな」
「だな……」
十代もごくりと黒い液体を飲んで、刺激と甘みに酔いしれる。
人間が寝静まった夜の床下で、小さな二人は未知の味に笑い合うのだった。
作品名:FIZZY DRINK 作家名:なずな