二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

さよならと、ありがとう

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

汚職にまみれた政府の動かすこの世界は、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。
みんなはじめから気づいていた。破綻だらけの国がいつまでも続くはずがないと。皆がみな、諦観していたのはひとえに、政府の存在があったからだ。皮肉だが、彼らがいなければ、きっと誰も腐りきっていく政治に気づきはしなかっただろう。


俺は汚れた街を、足下にからみつく邪魔な手を踏みつぶしながら歩く。物乞いや娼婦で溢れかえったかつての首都は、今や政府ですら手出しできない無法地帯となっていた。
東の大街をつぶされた政府は、千年以上昔の首都に退避した。国の機関も政治家もそれ以外も、大半が西に移動した。もはやこの汚れきった東の首都に残っているのは、家族のない者や長時間の移動ができない者、それから俺のような変わり者だけだ。



二ヶ月前、弟たちが西に行った。
俺が進言したからであって、何も言わずにいれば、まだ弟たちはここにいたと思う。
それは俺と弟と幼なじみと、それから俺のことを本当の兄のように慕ってくれる少女と、四人で身を寄せ合いながらの暮らしが厳しくなってきた頃だった。みんな口にはしなかったけれど、確実に考えていただろう。だから俺が提案しても、誰も否定しなかった。
ただ、俺はここに残るから三人で行ってくれと言ったときは、うるさいくらいに反対された。弟は「何を考えているんですかこんなところに一人でなんて死ぬ気ですか」と怒鳴ったし、幼なじみは「信じられないわ、馬鹿なこと言わないでちょうだい」とヒステリック気味に叫んだ。少女だけは何も言わず、泣きそうな顔で俺の袖をシワになるくらい握りしめていたが、適当な理由をでっち上げ無理矢理に納得させて、三人を半ば強制的に送り出した。

正直言って、この街に残った理由はなかった。ただなんとなく、俺はこれ以上みんなと一緒にはいられないと思ったら自然と口にしていたのだ。厭世観の強い方ではない、と思う。だけどこんな時代では、生きたいなんて思うほうが難しい。



地方で生まれ上京してきた人間は皆田舎に帰った。残念なことに俺たちは、この街で生まれこの街で育った。帰る場所なんて無かった。

街をぶらぶらと歩いていると、そこらに這いつくばっている奴らとは少し毛色の違う女がいた。季節外れのマフラーを巻いたそいつは使われなくなって久しい郵便ポストの上に堂々と足を組んで座り、人通りのほとんどない往来をじっと眺めていた。
この街にまだ話の通じそうな奴が残っていたとは、と素直に感嘆して、それでもわざわざ声をかけることはせずに通り過ぎようとした。

「なーんかさ、ヤな世の中になっちゃったよねぇ」

誰に言うでもない、きっと俺にだって声が届けばいいとすら思っていないような口振りで女は言った。それにわざわざ答える義理もなかったが、俺も目的があって街を歩いているわけではない。多少の世迷い事なら付き合ってやってもいいだろうと、気まぐれに足を止めて女の顔を見た。
女は目を見開いてまじまじと俺の全身を見やる。些か失礼な行為ではあるが、咎める者がいなければそんなこと関係ない。

「なになに、あたしとお話ししてくれるって?いやー、ヤな世の中だけど、まだ捨てたもんじゃないねぇ」

ポストから飛び降り、女は俺の目の前に立つ。背は俺より少し低いくらいだが、年齢は少し上だろうと思う。

「初めましての挨拶は基本だよね。あ、でも名前はいいかな? あんまり名乗りたくないんだ。代わりと言っちゃなんだけど、かるーく自己紹介でもしようか。あたし、お姉ちゃんと山奥の田舎から出てきてるんだ。これが冗談じゃなくて、ホンットに山しかないの。都会の人が来たら、まず間違いなく何もないねって言うくらいの。お姉ちゃんは学者…みたいなものかな。あたしも見習いでね、お姉ちゃんがこっちに行くって聞いたから、ついて来ちゃったの。都会なんて出たことないから、山しか知らないから、どんなとこだろーってすっごく期待して来たのに、こっち来てひと月しない内に政府が西に逃げちゃってねー。あれは参った。あっという間に夢の都会生活が終わって、今度は田舎でも真っ青なサバイバル生活ときたもんだ。その時にいったんお姉ちゃんとは別れてね、今も連絡は取り合ってるんだけど、……」

頼んでもいないのに自分の身の上から脈絡もなく最近の情勢まで、大方話し終えるとおもむろにポストに上がった。とんでもないマシンガントークだった。

「実はあたしさあ、お姉ちゃんじゃなくて、もう一人連れがいるんだよね。で、その連れが昔は政府関係者だったとかで、いろんなツテでいろーんなことしてもらってるんだけど」

マフラーをいじりながらポストに立ち、辺りをきょろきょろ見回す。何を思ったのか、はっとしたようにこちらを振り返ると慌てて両手を振った。

「いや、別に悪いことしてるんじゃないからね? そこだけ勘違いしないでね」
「…勘違いも何も……誰が何をしようが今更どうでもいい」
「そ? そんならいいんだけど。でさ、なかなかその連れが帰ってこなくてね、見た目は結構がっしりしたおじさんなんだけど、見てないかな?」

まさかそれが本題か。

「髪はキミよりは長くて、茶色で、背も高めかな。見てたら教えて欲しいんだけど」
「…………地べたに這いつくばって移動するような人間じゃなければ、見てないな」

少なくとも今日初めてまともな言葉で俺に話しかけてきたのも、立っていたのも、この女だけだ。

「そっか。んー、参ったな。こりゃ、どっかでくたばっちゃったかなー?」

女は頭をかきながら唸っている。
これ以上興味のない他人の話に付き合わされるのは御免だ。女が静かなうちに、俺はポストから離れた。



そこからは元オフィス街に沿って歩いた。比較的大きな道になるので、先ほどの様に足元に腕が絡みつくこともなく歩きやすい。
しばらく歩くと、反対側からガタイの良い男がこちらに向かってくるのが見えた。髪は長めで、茶髪の男だ。
ああ、今出会った女の連れとはこの男のことかと思ったが、特に何も言わず、相手もこちらを見もせずにすれ違っただけだった。

作品名:さよならと、ありがとう 作家名:きじま