口の悪いカレ
出来るだけ側で見ていたいような気持ちにさせられるものだとも。
手間さえ惜しまなければ、と言った言葉通り、古泉の料理は手間を惜しまない分時間がかかる。
それでも、それが少しも苦にならなかった。
出来上がった料理も、待たされた時間に相応しく、素晴らしい出来映えだったからかも知れないが。
「ん、うまい」
いつものことながら、夢中になって口に運ぶ。
ポテトサラダは少し芋の塊が残っているくらいが好きだとか、サンドイッチには辛子が多めに入っているのが好きだとか、俺が前に口にしたちょっとした好みを覚えていて、何も言わずにきちんとそれに合わせてくれることに、軽い感動すら覚える。
古泉は俺のために料理をしてくれるようになったその初めの頃からそんな感じで、俺の味の好みなんかを事細かに聞きながら作ってくれた。
一番最初に食べた時は驚いたとも。
卵焼きも酢の物も、完璧に俺好みに作ってくれたからな。
それこそ、うちのお袋以上だった。
最近では、初めて作る料理でも、俺にあれこれ聞いたりしない。
それを寂しく思わないでもないのだが、出来上がる料理はどれもこれも俺の好みに合致する味で、その理由が古泉が俺の好みを完璧に把握したからだと思うと余計に嬉しくなる。
せっせと食べていると、古泉は本当に幸せそうに微笑み、
「あんたがそうやってうまそうに食ってくれるから、俺も幸せなんだ」
と言った。
毒づくことも出来なかったのは、口の中がいっぱいになってたからだ。
そうして粗方食べ終えたところで、俺はあることに気がついた。
「…あれ? デザートは? 今日はないのか?」
いつもならフルコースの如く揃えるくせに珍しい。
「別に必要ないだろ? …あんたがいるんだから」
「は……恥ずかしいこと言うな」
真っ赤になってそう言うと、古泉はにやりと笑い、
「真っ赤になっちゃって……りんごかさくらんぼみてぇでうまそう」
とテーブルの上に身を乗り出すと、俺の頬にちゅっと音を立ててキスをした。
「っ…」
驚きながら逃げ出すことも出来なくなっている俺に、古泉は柔らかな笑みを向け、
「な、食っちゃだめ?」
「だっ……………だめに、決まってんだろ」
「えー。本当に? 絶対? だめ?」
子供みたいに言う古泉から、俺はふいっと顔を背け、
「……デザートって言うなら、全部食い終わってから言え」
「…ああ、そうだったな」