二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

愛情確認

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 
ちょっと保健室に行ってカウンセリングを受けてみないか。いやあ、最近試験が終わったばかりで疲れていないかと思ってな。お前は優秀な分、ストレスを貯めてるんじゃないかと先生は心配なんだ。わかるよな、矢霧。
クラス担任の言葉を思い返しながら、波江は保健室へと足を運ぶ。教師の意図に察しはついた。ようは、波江が誠二を愛することを異常という枠に当てはめる愚考により、精神的なケアが必要であると断じたのだ。
まったくくだらないことではあったが、もしここで断り家に連絡が入ったらと思うと仕方なく従うしかなかった。両親からの糾弾を恐れているわけではない。波江が気にするのは、両親経由で誠二の耳に入ることだ。優しい誠二は、きっと波江を心配するだろう。そのように誠二の心を曇らすなど、以ての外だ。許されざる行いであった。
波江はもっと、恋愛感情を向けてくる姉を弟が嫌悪しないのかを気にするべきなのだが、波江の頭の中に自分が誠二に嫌われるという可能性はない。どれだけ誠二がよそ見や寄り道をしても、最後に選ばれるのは自分だと、根拠もなく思っていた。いや、波江にとっての根拠は波江が誠二を想う心ひとつで十分なのだろう。
「失礼します。」
保健室のドアを開け入った先には、やけに幼い顔をした男が白衣を着て椅子に座っていた。
「矢霧ですが。」
「ああ、矢霧波江さんですね。担任の先生からお話はうかがっています。どうぞ、こちらに。」
男の胸のネームプレートには、竜ヶ峰とあった。随分、顔立ちや雰囲気にそぐわない名字だと思った。
勧められるままに、波江は竜ヶ峰の前に置かれている椅子に座る。竜ヶ峰はなにやらファイルから紙を取り出し、指に挟んでいるボールペンでその紙をコツンと叩いた。
「えっと、矢霧さんは何か、困っていることとか悩んでいることとかありますか?」
「いいえ、ありません。」
「本当に?」
「はい。」
「…そうですか。」
しつこく訊ねてくる竜ヶ峰に、波江は素っ気なく言葉を返す。カウンセリングとやらに一応付き合いはするが、長居する気は毛頭なかった。
「矢霧さんにとって、血の繋がっている弟を愛することは困り事でも悩み事でもないんですね。」
そう言われても、波江は動揺することなく何一つ誤魔化さず想いを告げる。波江にとっては恥じることのない事実であるし、竜ヶ峰がさっさと匙を投げてくれればいいと思っていたからだ。
「当たり前です。誠二は私のすべてで、何よりも誰よりも大事な存在なんですから。」
「それは、あなた自身よりも?」
「はい。」
竜ヶ峰は成人男性にしては大きめな眼を数回瞬かせてから、感心したように頷いた。
「すごいですね。」
「…は?」
「僕には自分より大事な誰かがいるという感覚はわからないですけど、そこまで一途になれるのはすごいことですよ。」
竜ヶ峰の言葉がお世辞やご機嫌とりではないと、見ていればわかった。だからこそ、波江は一瞬言葉を失った。
なんだ、この男は。波江は誠二への愛が異常だとはかけらも思っていないが、一般的にこの想いが認められるものではないという知識はあった。
珍獣を見るような眼を、竜ヶ峰に向ける。疑問という形でさえ、波江が誠二以外の男に関心を持ったのはこれが初めてだった。
「うん、別に矢霧さんは心の病気でもなんでもないですよ。あっ、でもそうなると報告書に何て書きましょうか。病気は病気でもお医者様にも草津の湯にも治せない不治の病のほうでした、でいいかなあ。」
ぶつくさ言いながら、竜ヶ峰は顎を軽くボールペンでつつく。
「…馬鹿じゃないの。」
波江が呟いた言葉に、竜ヶ峰は微笑んだ。竜ヶ峰は笑うと、ただでさえ幼い顔立ちに拍車がかかる。
「敬語じゃないほうが、なんだか矢霧さんには似合いますね。」
「褒めているつもりかしら、それ?」
「はい。」
波江は誰かに否定されようが肯定されようが、関係なく誠二を愛していた。他者の言葉に波江は意味を見出さない。
けれど不思議と今、自分が機嫌良く笑っていることを、波江は自覚していた。
作品名:愛情確認 作家名:六花