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泣き疲れて眠ったアルフレッドの寝顔を眺めていたら、忘れていたはずの感傷が蘇ってきた。
アーサーのたった1つの生きる支えだった小さな弟は、いつの間にかこんなに大きくなっていた。
それが嬉しいのに、切ない。

「…お前がこの先も幸せに生きる世界のために、俺は生まれたんだ…アル…」

予言が、あった。
7つの月が満ちるときに生まれた召喚士の血筋を引く3人のうち誰かが、次の柱になる、と。
予言にかかわってきたフェリシアーノ、ロヴィーノ、アーサーは物心ついた時から覚悟を背負って生きてきた。
今更、揺れない覚悟も決意もあった。
この命で数十億の命が贖えるならそれでもいい。
―そんな風にして、育てられてきたのだ。この23年間。


”…アーサー、ありがとう。俺と兄ちゃんに未来を残してくれて…。それでも、俺はいつでも柱になる覚悟はある。…辛くなったら言ってね”


そう言って弱く笑んだ年下の青年は、強い。
フェリシアーノには結局柱にはなりえないと判断された力の弱い兄がいて、更に過去に彼は祖父を柱として失っていた。
アーサーは彼の兄から弟を奪えない。
悲しみの連鎖は断ち切るべきだと思った。
だから、血のつながった肉親のいない自分が名乗り出た。
アルフレッドは怒るだろうと思った。それでも、あの兄弟にこれ以上の悲しみを背負わせたくなかった。


とんだ、矛盾かもしれないけど。(だって俺は今度はアルに、その悲しみを背負わせる)


「アルフレートは寝ちゃったの?」
「…ん」
「そ。だったらこっち来てあったりまな」
「お前だけなのか?」
「ギルとアントンはその辺軽く見回ってくるってさ。キクとフェリシアーノは薪拾いにいってくれてる」

おいで、と呼ばれてフランシスの隣に座る。
差し出されたカップを受け取って、揺れる炎を見つめた。

「…寒くない?」
「平気だ」
「そう」

―フランシスは、優しい。
今も、アルフレッドに泣かれて少し落ち込んでいる自分を慰めてくれようとしているのが雰囲気でわかった。
ずっと幼いころから、一緒だったのだ。
アルフレッドが生まれるずっと前から、守ってくれたただ1人の理解者。
言葉がなくても、分かり合えるのが心地いい。
ぬるま湯に浸っているような柔らかな幸せを、フランシスの傍にいると感じることができた。

「…なぁ」
「ん?」

旅に出るよ。
作品名:untitled2 作家名:湯の人