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きりぎりすごっこ

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優雨が唐突に家にやってきて、「銭湯に行きませんか」とよく判らない誘いをよこしたのは、丁度夕食を摂り終えた後、午後7時ぐらいのことだった。
「銭湯って……どうして突然」
「締め切り間近で息切れしてるんじゃないかと思って。たまにはいいじゃないですか?」
 確かに今、俺の手元には原稿依頼書と白紙の原稿用紙がある。ほぼアイディアは固まりつつあるのだけれど、それをどう文字にしていいか判らない状態で、息切れしているという優雨の推測は当たっている。けれどだからこそ、今俺はここから離れるわけには行かないわけで、ひとまず断る方向に話を持っていこうとする。
「散歩がてら、気分転換になりますよ」
 優雨は引き下がる気配もなく、悪意のない笑顔を俺に向ける。悪意がない、というか、悪意が無いように見える、というか。
「……判ったよ、どうせ煮詰まってるんだもんな。行くよ」
「よかった。じゃあ、僕、外で待ってますから」
 優雨が微笑む。その笑顔を向けられると、俺は弱い。何か裏があるかもしれないと思っても、あの笑顔を向けられるだけで、つい口車に乗ってしまう。それがいいことにせよ悪いことにせよ、どうしようもない。だって俺は彼のことが好きなんだから。
 昔からずっと立っているらしい古い銭湯が、実は家のすぐ傍にある。古い、と云っても、システム的には今風の煽りを食らってなのか、それほど古めかしいわけではない。タオルは追加料金で貸し出してくれるし、石鹸も贅沢を云わなければ備え付けてある。とりあえず着替えだけ持って部屋を出ると、似たようないでたちの優雨が、少し笑う。
「何だかなぁ、桶とか持っていかないんですか」
「何馬鹿なこと云ってるんだよ……」
 苦笑混じりに返すと、まるで悪戯のばれた子供か何かのように、彼は微笑をこぼした。余りらしくない立ち居振る舞いではあるけれども、まあいいか、と思う。
「じゃ、行きましょうか。お金持ちました?」
「えっ?一人分でいいんだよな」
「風呂代たかったりしませんよ」
作品名:きりぎりすごっこ 作家名:nabe