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きりぎりすごっこ

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 古めかしいケロリンの黄色いプラスチック桶に湯を張りながら、隣をふと盗み見る。別に男の裸体なんて珍しいもんでもないのだけれど、しかも優雨の裸体なんて嫌になる程見ている筈なんだけど、何となくどぎまぎしてしまう。広い浴場内にはまだ俺達以外に人は居ない。さっき女湯の方から子供の声がしていたように思うが、湯船に浸かっている間に居なくなってしまったようだ。
「どうか、しました?」
 気がつけば優雨がこちらを見ていた。視線に気が付かれていたのかと思うと気恥ずかしい。
「あ、いや……」
「……あ。判った。背中流しましょうか」
 何をどう解釈してそうなったか判らないけれども、何故か優雨は唐突に云う。いや、別に唐突じゃないのか。銭湯で背中を流してもらうというのは別に普通のことだ。ただ、俺がどうかしているだけか。
「……じゃあ、お願いしようかな」
「はいはい」
 貸付の垢すりタオルを泡だらけにして、彼は俺の背中を擦る。ふと、奇妙な気持ちになる。これだけ見ていれば、単なる仲の良い友人に見えるだろうに。
「……」
 変な沈黙が広がる。
 彼の手が背中を滑るたび、馬鹿馬鹿しいほど正直に、欲求が高まる。意識的に呼吸を抑えている所為で、かえって息がおかしなリズムになる。タオルの感触が、洗うという目的からは考えられないぐらい柔らかくなって、俺は彼の気持ちを考える。
「……優雨?」
「あ……ご、ごめんなさい」
 狼狽したような低い声が浴場によく響いた。照れ隠しなのか今までよりずっと強く、彼は俺の背を洗う。
「ちょっと、痛いかな」
「すいません……」
 彼は俺の変調を悟ったのかもしれない。純情無垢な乙女でもあるまいし、たかがこれだけの接触で照れるような関係でもないけれど、それでもやはりまた、少しずつ高ぶりがよみがえって来る。そんなものは、今は感じたくなかったのだけれど。
 気がつけば俺は泡だらけになっていた。
「ごめん、……もういいよ」
「あ、そうですか?」
「うん。あ、背中、流す?」
 軽い気持ちで訊くと、彼は苦く笑って首を振った。
「いいです、何か……いや、いいです」
「何だよ」
 彼は俺ほど自制の利かない男じゃない。だから、彼の頬が赤らんでいるのも、肌が熱いのも、すべて浴場の熱気の所為だと思う。
作品名:きりぎりすごっこ 作家名:nabe