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洗濯日和

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ばさり、ばさ。
布の翻る音が耳に入ってきて、雲雀はキーボードを打つ手を止めた。
(なんだっけ)
ばさ、ばさり。
(…ああ、そうか)
少し時間をおいてまた同じような音が聞こえてきたので、それが何によるものか思い至る。
座椅子から立ち上がり、仕事部屋とベランダを隔てている障子をからりと開けて、外を眺める。
そこには雲雀の想像通り、ベランダにある物干し場で籐の籠に入った洗濯物を一枚ずつ広げて干している、綱吉の姿があった。
「よいしょ、っと」
ばさばさ、ぱたぱた。
タオルや靴下、下着類、綱吉のジーンズや雲雀のカッターシャツ、などなど。
二人分の洗濯物が、軽く形を整えてから次々と干されていく。
熟(こな)れた様子は、秋で17になる高校生の少年というよりは主婦のものに近い。
大体一日おきに洗濯機を回している綱吉だが、昨日は夕方までずっと雨が降っていたので、仕方ないと一日先送りにしていたのだ。
だから今日の洗濯物は、普段より、少しだけ量が多い。




昨日の雨が嘘のように晴れた今朝は、夏らしく日差しも強くて、絶好の洗濯日和。
ということは、暑い。
物干し場と洗濯籠のわずかな距離を行ったり来たりするだけでも、背中に汗をにじませる。
「…ふう」
籠の中身が残り少なくなってきて、額に掻いた汗をぬぐった綱吉は、ふと仕事部屋の障子が開かれて、中から雲雀がこちらを見ていることに気づいた。
「……?」
なんだろう、とこてんと首をかしげると、小さく笑みが返されて窓が開けられる。
「恭弥さん、どうしたんですか?」
「音が聞こえたから」
「音…って、洗濯物干してる音ですか?」
「そう」
窓の前に置いてあるサンダルを履いてベランダに降りた雲雀は、エアコンの冷気が逃げないように窓を閉めて綱吉の傍にやってきた。
「ごめんなさい、うるさかったですか?」
「構わないよ」
仕事の妨げになっただろうかと小さく肩を落とした綱吉の頭を撫で、雲雀が洗濯籠の中をのぞき込む。
残っていたのはシーツとタオルケット、それともう一つ。
「これも洗ったんだ」
「はい。今日はお天気良いから、張り切っちゃいました」
えへへ、と笑った綱吉に、今度は雲雀が首をかしげる。
「シーツとかはわかるけど、これはそんなに着てなかったのに」
そう言いながら雲雀が指さしたのは、彼が寝間着で着ていた浴衣。
「昨日なんて、ほとんど着てなかったじゃない」
余談だが、昨夜雲雀は夕食後、寝る前に一度風呂に入っている。
その後に風呂に入った綱吉は、パジャマを30分と着ていられなかった。
つまりは恋人同士、ベッドの中で仲良くすることをしていたわけだ。
「…それはそうですけど…」
何を指しているのか悟った綱吉が、頬を赤くして口ごもる。
「でも、いま洗っておいたら、今晩着るときに気持ちいいかなって、思って…」
「一晩中着ているかは解らないけどね」
「あう…」
それとなく夜の誘いをかけられて、綱吉がますます頬を紅潮させる。
「まあそれは置いておこうか。これ紺色の生地だから、他の洗濯物に色移りしなかった?」
「あ、だ、大丈夫です。それ、一番最後に別で洗って、軽く脱水機で回してますから」
和服は手洗いかクリーニングというイメージが強いが、浴衣や化繊の着物に関しては、洗剤と脱水時間に気をつければ、自宅での洗濯機使用も可能である。
「あとで奥の和室に干そうと思って、持ってきてたんです。衣紋掛け、あそこにあるし」
「ふうん、そうだったの」
ただし、どれだけ天気が良くても陰干ししないと、生地の縮みが目立つ恐れがあるので、そこは気をつけなければならないのだが。
「手間をかけさせるね」
「いえ、そんなことは」
雲雀の言葉に、綱吉は首を横に振る。
「浴衣は、正絹やウールの着物に比べたらずっと、扱いやすいですから」
「それもだけど。洗濯にしても掃除にしても、」
いろいろだよ、と言いかけた雲雀の唇を、綱吉が人差し指でちょい、と押さえてふさぐ。
「前にも言いましたけど、こういうのは俺がやりたいから、やらせて貰ってるんです。手間だとか、面倒だって思ったこと、一度もありません」
ふわりと微笑った綱吉は、指を離してきょとりとした表情の雲雀を見上げる。
「俺の趣味は、恭弥さんのお世話です。だから、恭弥さんがそういうふうに気にすることなんて、何にもないんですよ」
そう言うと、綱吉はとん、と雲雀の肩口に額を押しつけた。
「俺は…俺みたいなのが、恭弥さんのためにできることがあって、嬉しいんです」
うわべでなく本心でこれを言っているのだから、尽くすことを惜しまない綱吉の優しい性格が伺える。
「…ありがとう、綱吉」
ささやいて、細くしなやかな体を抱きしめる。
日の光を浴びて熱のこもった綱吉の体からは、かすかににじんだ汗の匂いと、太陽の匂いがした。




作品名:洗濯日和 作家名:新澤やひろ