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洗濯日和

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「洗濯物、干すのはあとこれだけ?」
「はい」
「じゃあ手伝ってあげる。大物だから大変だろ」
浴衣はともかく、シーツとタオルケットはダブルサイズなので、比較的小柄な綱吉では干すのも一苦労だろう。
「でも、良いんですか?お仕事…」
「急ぐ仕事じゃないから」
表の顔はフリーランスのプログラマーである雲雀は、どこからか仕事を引き受けていて、いつの間にかプログラムやソフトを完成させて納品している。
「だったら、お願いします」
「うん」
するりと体を離して、綱吉が洗濯籠から、まずタオルケットを取り上げる。
両端を二人で持って、物干し竿に広げて掛け、洗濯ばさみで留めた。
続けてシーツを干そうとすると、雲雀に取り上げられた。
「恭弥さん?」
「こういうときには、上背のある人間を使えば楽なんだよ」
綱吉が不思議そうに目を瞬かせると、雲雀はシーツの端を抱えて、反対側を物干し竿に向かってひょいと軽く放った。
ちょうど半分くらいのところで布の塊が掛けられると、「ほら広げて」と促される。
「あ、そういうことか!」
なぜ雲雀がそんなふうにしたのか理由が分かって、綱吉は笑顔になる。
シーツを干そうとした竿は少し高い位置にあるので、おそらく綱吉が同じことをしようとすると、放り投げた端が垂れ下がって落ちてきて、せっかく洗ったシーツが地面についてしまっていたかもしれない。
端を竿に向かって投げる布の幅や力加減に気をつけていても、実はそういう経験が、綱吉には何度かある。
雲雀は上背があるぶん物干し竿に目線が近いので、その目測や加減がやりやすいのだ。
「ありがとうございます。助かりました」
布を広げながら言うと、うん、と雲雀が短く返す。
「洗濯ばさみ、貸して」
「はい」
紫色の大きな洗濯ばさみを手渡して、ぱちりと端を留めてもらう。
「…ふふ」
ふむ、と満足げに息をついた雲雀の隣に立って、綱吉が笑みをこぼす。
「?なに」
「いえ、ちょっと…」
「なんなの、気になるじゃない」
言いよどむ綱吉の、子供らしいまろさを残す頬を両手で包んでふにふにいじると、彼は笑って首をすくめた。
「ほら、言いな」
「や、ちょ…っ、くすぐったいです、恭弥さん」
「言わないとこのままだよ」
そんなことを言いながら、雲雀はますます綱吉の体へ触れてくる。
大きな犬がじゃれるようなそれに、笑い声を立てた綱吉が白旗を揚げた。
「…じゃあ、言いますけど、笑わないでくださいね?」
そう言うと、綱吉は照れたような表情で雲雀を見た。
「えっと、こうやって洗濯物を一緒に干してるのって、その…新婚さんみたいだなぁって、思ったんです」
少年の口から出てきたのは、なんとも可愛らしい発想。
「…だいぶ前から結婚してるようなもんじゃない、僕ら」
「そうですけど!…俺、こういうことは押しつけられるか、自分でやるのが当たり前で、『手伝って貰う』っていう発想が全然なかったから、改めて思った、っていうか……」
思いがけない表現に虚を衝かれて雲雀が言えば、綱吉は恥ずかしさがこみ上げてきたのか顔を真っ赤にする。
「す…すみません……女の子みたいな考えだなって、俺も思ったんですけど…」
耳どころか首筋まで赤くなった綱吉に、ぷ、と青年は小さく吹き出した。
「あ、笑った!笑わないでって言ったのに…」
「違うよ、おかしくて笑ってるんじゃない」
くつくつと喉を震わせながら雲雀は言い、拗ねたようにとがらせた綱吉の唇をちょん、と啄んだ。
「相変わらず可愛いことを言うね、綱吉は」
「っ、」
「健気で愛しい、僕の金糸雀」
「!」
雲雀が言えば、綱吉は琥珀色の瞳を瞠らせて、すぐに柔らかい笑顔を浮かべる。
「…俺は、大事な黒猫さんのためにしか、啼きませんから」
金糸雀は黒猫───雲雀の『生きる糧』である綱吉の、象徴ともいえるフレーズ。
「一緒にいて4年になる相手に、新婚って単語を使って良いのかは解らないけど、仕事中でなければこのくらいはしてあげる。気兼ねせずに声かけな」
闇を歩く黒猫と、彼を照らすために翼を折り地上を選んだ金糸雀。新婚であろうとなかろうと、どちらにしろ似合いの夫婦ではないか。
「…はい。ありがとうございます」
ほにゃあ、と嬉しそうに微笑った綱吉の額にこつりと自分の額を合わせて、雲雀はもう一度口づける。




「浴衣を干したら休憩しよう。お茶を淹れて」
「わかりました。すぐ干してきますから、リビングで待っててください」
「うん」
籠を抱えて物干し場を離れ、綱吉が仕事部屋の隣にある和室の窓を開ける。
その背中を見送って、雲雀は仕事部屋に戻った。
付けっぱなしのエアコンの冷気が、ひやりと肌を撫でる。
「…………」
少し考えて、雲雀は立ち上げたままだったパソコンの電源を落とした。
現在引き受けているのは草壁が事務所で使うソフトのアップデートプログラムで、納期は特に設定されていなかったから、急ぐ仕事ではないと綱吉に言ったのも嘘ではない。
(休憩が終わったら、あの子の勉強を見てあげようか。朝食の時、今日は夏休みの課題をするのだと言っていたし)
幼い頃の境遇と少々珍しい外見のせいで、対人恐怖症に近い症状を持つ綱吉は、普段学校へは通わずに通信教育で勉強していて、学期ごとに行われる試験だけを雲雀の母校で受けている。
課題が出されたのもその高校からで、進学校らしくその量は結構なものだったから、目にしたとき綱吉が苦い顔をしていたのを憶えている。
(提出期限までにできる自信がないとあの子は言ってたけど、やれば出来る子だし、期限内にすべて終わらせるのも難しくないと思うけど)
飲み込みに少し時間が掛かるからか、何かにつけて綱吉は自分ができない人間だと思い込んでいるらしいのだが、一度理解してしまえばこなすことができるので、本人が考えているほど出来の悪い子ではないことを雲雀は知っている。
(全部を教えたら勉強の意味がないけど、ヒントを出すくらいなら構わないよね)
綱吉が雲雀を大切に思ってくれているように、雲雀も綱吉が大事で仕方がないのだ。だから、自分にできる限りのことはしてやりたい。


窓の外を見れば、夏の日差しを浴びてひらひらと揺れる洗濯物たち。
二人で干したタオルケットとシーツも、風を受けてはためいている。
「恭弥さん、お茶入りました」
「いま行くよ」
午前中は家庭教師をして、午後になって乾いた洗濯物を取り込むのも手伝うと言ったら、あの子は先程のように喜んでくれるだろうか。
小さな期待を抱えて、雲雀はエアコンのスイッチを切って、仕事部屋を出た。



作品名:洗濯日和 作家名:新澤やひろ