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家庭教師情報屋折原臨也3

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「いつもありがとな」
先ほどの事もあり、静雄は少し引き気味でその紙袋を受け取り、中身を見た。
「ハンカチと・・・何だこれ?」
ハンカチは白地に黒いラインの入った、至ってシンプルなものであった。もうひとつは箱に入っており、開けてみると小さなデザイン性のある、薄青い液体の入った小瓶が入っていた。
「あぁ、それ香水だね」
「香水?」
「うん、きっと静雄君に似合うと思うよ」
静雄はその小瓶をしげしげと眺めた。透き通るような青はどこまでも綺麗で、どこか別世界を感じさせるような雰囲気を持っていた。
「そっちの人は?」
幽の視線が臨也に移った。表情からは判別しにくいが、少し警戒しているように静雄には見えた。
「この人は家庭教師の折原さん。一ヶ月前から教えてもらってる」
「家庭教師ですか」
小さく復唱すると、幽は背筋を伸ばし、臨也の方に向き直った。
「兄を、よろしくお願いします」
そして深々と頭を下げ、幽は部屋から出て行った。静雄は驚きで一瞬固まった。
「お願いされちゃったね、静雄君」
「幽の奴……」
静雄は顔に手を当て、深い溜息をついた。
「ま、社交辞令だろうから気にすることもないんじゃない」
「俺が気にします」
ガキじゃねぇって。静雄はもう一度溜息をついて勉強机の椅子に座った。臨也もベッドから椅子へと場所を移り、勉強を始めた。



   *  *  *



「じゃあ、また明日」
「ありがとうございました」
玄関でにこやかに手を振る臨也に手を軽く振り返して見送り、静雄はリビングへと入った。
 リビングには幽一人がソファに座ってテレビ番組を見ているだけで、母親の姿がなかった。テレビの中では、可愛らしい動物の子どもの特集をやっていた。
「勉強終わったの?」
テレビから視線を外し、幽は静雄を見た。
「あぁ。母さんは?」
「会社の方に呼ばれて出かけた。夕飯は冷蔵庫だって。食べる?」
そう言われて時計を見ると、時計は良い時間を指していた。
「そうだな」
静雄は冷蔵庫を開けた。中には二人分のラップのかかった皿が置いてあった。それらを取り出すと、カウンターキッチンの奥に進んで一皿目をレンジに入れて温め始めた。
「あの家庭教師の人、兄貴が選んだの?」
幽はソファからキッチンへ向かい、静雄の横に立った。
「んな訳ないだろ。母さんだよ」
もう一皿をレンジの上に置き、静雄は温めている間の時間を使って、しゃもじを手に炊飯器を開けて茶碗にご飯を二膳分用意し、幽に手渡した。
「変わった人だね」
それらを受け取った幽はカウンターをまわり、ダイニングテーブルに向かい合うように並べた。
「まぁ、家庭教師って感じはしないな。なんつーか、こう……そう、暇つぶしでやっているみたいな感じがするんだよな」
一皿目の温めなおしが終り、静雄は箸二膳とともにその皿をテーブルに置いた。幽はすれ違いにキッチンに戻り、もう一皿の温めなおしを始めた。
「俺もそう思う」
静雄もキッチンに戻り、幽の横に立った。
「まあでも教え方は上手い方だと思う。解説とか丁寧だし」
「でも兄貴もともと成績良いよね」
幽の言葉に、静雄は動きを止めた。
「……何で知ってるんだ?」
「前にごみ箱に捨ててあった成績表見たんだ。それで」
それを聞いて、静雄はもっと目につかないところに捨てるべきだったなと思った。
「母さんには内緒な」
その言葉に、幽は首をかしげた。
「別にいいけど、どうして?」
「……何でだろうな」
「さぁ、俺に聞かれても困る」
「そうだな」
ピーっと、二皿目の温めが終ったことを告げる電子音が鳴った。