家庭教師情報屋折原臨也3
夜、新宿。
臨也はサザンテラスに座っていた。道には出勤帰りの社会人の流れが出来上がっており、彼のように座ってのんびりとしている者は少なかった。
テーブルで一人、ペットボトルの紅茶を啜っていると、一人の女性が臨也の前に姿を現した。
「やぁ、遅かったね、波江」
「急に呼び出したのはそっちでしょう」
矢霧波江は長い髪を一度背中に払い、臨也の向かいに座った。昼間であればきっと周囲の目を引いただろうが、今は夜。周りに歩く者もいなければ臨也以外に座っている者もいなかった。
「で、何の用かしら?」
「別に用って程でもないよ。たまには外で食事でもどうかって思って」
空になったペットボトルを鞄に戻しながら臨也は言った。その言葉に、波江はあからさまに嫌そうな顔をした。
「……貴方、そんな理由で呼び出したの?」
「冗談だって。本題はこっち」
そう言って、臨也はついでに鞄から一つの封筒を出し、テーブルの上に置いた。
「前に頼んでいた資料が手に入ってさ。これ、整理しておいてよ」
その封筒の厚さに、波江は眉をひそめた。
「何、この量……」
「大丈夫。半分くらいは要らないやつだから」
「何が大丈夫よ」
「中身は何?」
「んー、池袋を中心に半径五キロ圏内に存在する集団の大切な資料だよ」
大切な、というフレーズを少し強調した臨也に、波江はため息をついた。
「…そんなもの手に入れて何に使うの」
間違っても私を巻き込まないで欲しい。そんな裏の声をこめて言った。すると、それを察したのか、臨也は小さく首を横に振った。
「いや、使いはしないよ。ただ持ってるだけ」
そう、持っているだけでいいのだ。それだけで管理できるくらいの力をこの資料は持っているのだから。
――― まぁ、手に入れるのにちょっと苦労したけど。
先日の四木とのやり取りを思い出しながら、臨也はため息をつき、椅子の背にもたれかかった。
作品名:家庭教師情報屋折原臨也3 作家名:獅子エリ