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すべてがおわって、それから

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水位は目で見てわかるほどに上がっているのに、太陽があった。
その光を映して光る光る、世界。
どこか向こうの高いビルに、誰かが居るのがうっすらと見えた。
世界が沈む。



「臨也、いざや?」


驚くほど穏やかな気持ちで静雄は臨也に向き直った。怒りがない、あるのは心を覆ううっすらとした恐怖と好奇心、空洞。
こんな気持ちで臨也を見るなんて、と少し感動。
静雄の手を引いたまま、臨也は。





「なんで、泣いてるんだ」


「後悔してるんだ、シズちゃん」
「俺、すごく後悔してる。悲しい、よ。恐いのもある。好奇心だってある、でも、後悔が一番多い、よ」



ぼろぼろと大粒の涙を落して、臨也は泣いていた。
まだ水に浸かっていないところも濡れている。

後悔、なんだろう。
静雄にはわからなかった。けれど、なぜだろう。さっきまで凪いでいた心が、ざわりと。







「君が好きだ、好きなんだ」





ぼろり、と零れたのは、静雄の心だった。





「大好きで、好きで、でも認めたくなくて、好きで、だから嫌いだと思おうとして」
「でも、こんなことになるんなら言っておけばよかった、もう、嫌だ、俺、」
「だって今言ったって君は死ぬじゃないか、俺も」



臨也はとうとう握った手で涙を拭いた。それでも後から、あとから、水位が増していく。
腰まで水に浸かった、2人だけで向き合って、それで。




「…んで、言うんだよ」
「おれ、だって今まで、そんなこと、」




急に心臓がどくどくと脈打ちだした。
恐い、どうしよう死んでしまう。自分が死んでしまう、臨也が死んでしまう。
心を失ったままでいればこんなことにはならなかったのに。



気づいたらいけない。
でも、泣かないで欲しい。
だってそれは、目の前で子供みたいに声を上げて泣いてるのは、静雄自身だ。
好きで、好きで嫌いで嫌いなのに好きになっていたのは、静雄の方だった。
でもそれに気づいたら、そうしたら。



「なんで、なんで言うんだよお…」
「ごめん、ごめん、好きだった」
「俺だって、すきだった、好きだ」
「うん、うん知ってる、知ってるんだ」


胸のあたりにまで水が増して、体温が失われていく。
思わず、静雄は臨也に触れた。同時に臨也の手が静雄の身体に回される。
強く強く、抱きしめられる感覚。
ずっと一緒にいたのにこんなに触れ合ったこと、あっただろうか。
ぎゅうぎゅうに抱いて抱いて、いつの間にか唇も触れていた。
引き寄せられて、冷たい水のなかで、すこうしだけ熱い。





「いざや、いざや、」
「うん、ごめん、ごめんね、だいすき、おれ」
「うん、」
「…死にたく、ないよお」
「うん、うん、そうだな、」



ぎゅうぎゅうに抱いて、それから、ゆっくりと。


世界は、水の底に沈んでいく。






後悔と、それから、。
























『でも、結局なんだったんだろうな、あれ…』
『まだ気にしてんの?君のお兄ちゃんが言ってたじゃん。連れてかれちゃうよ?』
『昔の文明の幽霊ってやつ?ばかくせえ』
『そうかな?俺はあると思うけどなあ、実際沈んでるんだし。愛し合う恋人達が無念のうちに…とか…ってあれ?』






『ちょ、ほんとに飛びこんじゃったの?陸まで遠いから船から降りちゃだめだって言われたじゃない。ねえ、ねえってば!』
















/すべてを失って、それから。


100724