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車轢於轍/如影随形

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「先輩も、異能者ですよね?」

 先輩も、ということは相手もそうなのだろう。否定しても良かったのだが、こういう輩は何故か鼻が利く。下手に誤魔化すと後が面倒だ。その場は曖昧な返事をして別れ、折りたたみ式の携帯電話を開く。発着信共に頻度が最も高い親友に、先ずは連絡と確認を。次いで、同級で片想いの相手だが今のところ友情続行中の友人にも同じ内容の電話をする。未だ他の2人には接触なし。一応の警戒を呼びかけ、彼は通話を切った。
 異能者として接触してきた、ということは異能者である彼に用があるのだろう。
 異能者としては全くの無名である筈の、彼に。
 寧ろ異能者であることすら知られていない、彼に。
他2人に声をかけるなら分からないでもない。親友のそれは汎用性が高く、彼自身の応用力もあって諸事にバランスが良い有用な人材だ。想い人のそれは攻撃性に特化している、しかも後遺症のおまけつきで荒事の絶えない昨今では咽喉から手が出るくらい欲しい戦力だろう。この2人は異能者としても有名だ、同年代の中では五指に入るとまで言われている。だからこれまで2人に近づこうと声をかけてくる輩は数多くいた、これからも絶えないだろう。
 それなのに何だって彼に声をかけてきたのだろうか。親友も想い人も彼等と同じ学校で、後輩だからといって気後れするような性格ではなかった筈だ。用があるなら直接話しかけるくらいには。
 予感がする。彼にとってその予感が善いものか悪いものかなど分からない。ただ、何かは起こるのだろう、と思うから今度は別の人物に電話をかける。

「すみません、お借りしたいものがあるんですが」

何もせずに待っていてやる程、彼は愚かではない。








 約一ヶ月後 廃工場

「俺たちのリーダーになって欲しいんです」

 要求としては有り勝ちなのだろう、若者の集団とはいえカラーギャングはある種の勢力だ。他勢力に誇示する象徴として異能者は都合が良い。常識的には不可能な力を行使する彼等はその存在だけでも抑止力になる。筆頭となれば尚のこと。彼の友人2人に声がかからなかったのは、既に彼も彼女も別の色の筆頭だからだ。

「いいえ、俺たちには帝人先輩こそ相応しいと思ってます」

彼の心情を読んだのか、後輩は笑顔でそう告げる。

「君だって異能者なんでしょ? 自分でやれば?」
「俺と先輩とだったら、先輩の方がリーダーに向いてます」
「それは能力が? それとも僕自身が?」
「同じことでしょう」
「……そうだね」

 異能とは使用者自身の本質の具現だ。使用者から乖離した能力が顕現することはない。それを分かっていない一般人には魔法のようにも見えるだろうが、万能ではないのだ。

「じゃあ質問を変えるけど、僕の能力を知ってるの?」

 彼の質問にいいえ、と後輩は緩く首を横に振った。

「それでも先輩に頼みたいんです」

インターネットを媒介に人を集め、しかし特に何をするでもなく、それでも確かに存在する無色のカラーギャング、その『創始者』に。そう語る後輩に、彼は溜め息を吐く。

「……僕に青色を名乗れ、と」
「はい」
「親友の補色を名乗れ、と」
「……はい」
「性格悪いね、青葉君は」

そうですね、と苦笑する後輩に認めるんだ、と言って笑う。しかしその笑みは

「で、どう思う?」

後輩とその仲間の後方へと向けられていた。
 彼等が工場の入り口へと振り返ると、人影が二つ。逆光で顔は判別出来ないがこの状況で間違えるというのがおかしな話でもある。

「反対、ていうか却下。俺のオンナに手ェ出した挙句に帝人まで? ふざけんな」
「私も反対です。これ以上、帝人君に能力を使わせたくはありません」

 1人は巨大な黄色い布を具現させた、黄色の筆頭『将軍』。
 1人は赤い眼をして刀を具現させた、赤色の筆頭『母』。
その2人がどうして此処に、と青色の彼等が殺気立つ。

「僕が此処を教えたんだ」

彼はそう言いながら地図の表示された携帯電話の画面を見せる。隠れて操作したために少々時間をくってしまったが、間に合ったと思って良いだろう。

「そういう訳で、まぁそうでなくても交渉は決裂。だって――――」


 互いに互いの『名』を握っているから。


 3人の声が綺麗に重なる。その言葉に後輩は二の句が継げなくなったようで、固まったその表情がおかしくて、彼はクスクスと声を立てた。
 『名』を教える、というのは異能者にとって最大の信頼表示だ。
 何せ教えた相手がその気になれば、自身の異能は消失、下手をすれば生命にも関わる。

「もう分かったよね」

 綺麗に綺麗に微笑んで

「2人のためなら命くらい捨てられるけど、君に使われるなんてゴメンだよ」

彼は後輩の要求を切って捨てた。


作品名:車轢於轍/如影随形 作家名:NiLi