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籠と海

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仲間が増えたのだ、という事は元親本人から聞いていた。
しかし誰を、という具体的なところは濁されその辺りから家康は若干いやな予感がしていた。
あの時、元親が西軍に乗り込んで自分に対して行われたおいたを懲らしめたあの時。
あの時から石田三成は天下から姿を消した。
己の神を殺され、あれほど熱心に家康の命を付け狙っていたのに関わらずあっさりと。
首をとられたとは聞かない。死んだとは。
でも、消えてしまったのだ。
考えながら家康は元親の元へ行くためにその領地内を歩く。
船の元に行ったのだ、と彼の家の者に聞いたのはつい先程。
仕方がないのでそこに向かっていたのだが、その最中ついつい思考を持て余していた。
そしてその結果、考えていたいやな予感が当たる光景を家康は目にしてしまったのだ。
船の置かれている港。
忙しなく元親を"アニキ"と呼び慕うものが働いているのが見えた。
その最中に居るのを見たのだ。
石田、三成。
船を見上げ、あの頃よりもずっと穏やかな顔をしていた。
秀吉が健在だった頃のような。
それでも常人よりは冷たい印象があるのは否めないが、それは昔からだ。
視線を下げ、働く者を見た後も表情は穏やかなまま。
ただ、他の者と違いその手に愛刀を持っている所だけが記憶のままの三成で
その事に対して家康は少しだけほっとした。
知っている部分がある事に対して。
そしてその姿が家康に気付く事無く背を向ける。
彼らの仕事を手伝う為か、彼らの向かう先に共に足を進めようとしていた。
それを見て思わず
「三成」
家康はそう、声を出してしまっていた。
昔の、まだ言葉を交わしていた時期の友人と変わらぬ姿に油断していたのかもしれない。
答えてくれるのでは無いかと思ったのかもしれない。
けれど声に三成が振り向いた時、それはありえないのだと家康は悟った。
恐らくそれだけで誰が己の名を呼んだのか悟ったのだろう。
手が刀にかけられ、瞳は一気に鋭くなっていた。
やはり自分は許されてはいないのだ。そう家康が思い出すには十分な顔。
「家康…っ」
憎悪の篭った声が聞こえたかと思うと三成が駆けた。
まずい、と家康は思う。
斬られる。と思った。
しかし


「やめねぇか!!」


刃が抜かれるか抜かれないかの瀬戸際で大きな声が頭上から響いた。
それは間違いなく元親の声。
そしてその声に反応して三成は止まっていた。
刀の柄にかけた手を引く事無く、声のした方角に視線をやった。
先程まで殺気立った目で家康を見ていたに関わらずあっさりと視線を反らす。
場違いだが、それにまず家康は驚いた。
己を殺すために生きていたはずの男が、その己を後回しにした。
その事に頭の中で衝撃が起こる。
なんて事だ、なんて事だと家康は誰にも知られずに思った。
「石田、俺と交わした約束を覚えてるか」
元親は船から降り、三成の隣に立つ。
今にも刀を引き抜かんなかりの姿勢のままでそれを迎えた三成は悔しそうな顔をした。
「………覚えている」
「なら刀を収めな。俺の所には家康が来る、が、そいつを斬っちゃならねぇ。
そう言ったはずだ」
「わかっているっ!!」
答えながら三成は怒りでぶるぶると震えていた。
刀の柄を力の限り握り締めてそれでも抜かずに堪えている。
それは三成が己の中に新たな神を作ったのだ。
そう家康が思ってしまっても仕方のない光景だった。
己の神の仇を、新たな存在の命令、いや、との約束で押さえ込む。
なんて事だ。ともう一度家康は思った。
自分になしえなかった事を友人があっさりとやってのけてしまったのだとわかったからだ。
しかも自分はその切欠を作った事になる。
彼の神を殺し、仇と恨まれるのは己で。
神が消えたからこそ、伸ばした手を掴まれた友人。
なんて事だと思う以外にできる事を家康は知らなかった。
「顔を見て抑えられねぇならあっちへ行ってな。野郎どもを手伝ってやれ」
「………」
三成は答えずに苦い顔をする。
返事もせず、唇を噛みながら果てしない沈黙を続けた。
「俺も後で顔を見せるからよ」
その沈黙を遮り元親がそう言うと
「………わかった」
また意外にあっさり三成は頷くともう一度だけぎろりと家康を睨んだ後
ふん、と鼻を鳴らして去っていった。
それをみて元親がやれやれ、と口に出す。
見ながら、聞きながら、家康は友人を改めてまじまじと見やった。
視線に気付いたのか元親はすまねぇ、と一つ前置きをすると
「あんな状態なんでね、すぐには言えなかった」
「いや、それは構わないが」
心情的には構わない事は無いのだが思わず家康はそう答える。
動揺しているな。と自分でも思いながら。
「しかし、何故」
「ん、あぁ…裏切りの代償にてめぇを好きにしろと言うんでな。
本当は殺せと言われたんだが、お前の言う通り馬鹿みたいに真っ直ぐな男だったんでね。
個人的にそう言う男は嫌いじゃない。殺すには惜しいんで傍に置いてみた」
それに、責任を感じているようだが事に関してあいつは悪かねぇしな。
そう付け加え元親は笑った。
「お前の事も我慢させた。無理矢理だが」
「我慢?」
「そうだ。だからあいつはお前を殺す事を諦めたわけじゃねぇ。気をつけな」
聞きながら三成の去った方角を家康は見る。
我慢させた。我慢した。我慢できた。
この友人はその事実がどれほど大きなことなのかわかっているのだろうかと思いながら。
心の中で、あくまで心の中でぎりりと奥歯を強く噛むような思いを抱く。
けれどそれを隠し、家康は笑った。
「そうか、でもよかった。前にも言ったがあいつは悪い奴じゃない。
だからどうかよろしく頼む」
「あぁわかってるさ。心配すんな、俺もあいつが気に入った。
真っ直ぐで、真っ直ぐすぎて嫌われて敵を作る。それでも生き方を変えない。そんな男だ。
そう言う男は大事にしたい。悪いようにはしねぇさ」
言われなくても知っている。そんな事。
笑みながら家康はそう思った。
昔から三成はそうだ。
真っ直ぐで、偽らず、裏切りや不正を憎む。
秀吉の命ならば容易く虐殺すら行って見せるのだから人道主義ではないのかもしれない。
人を殺せるほどに非情ではあるが、悪い人間ではない。
もしも、もしも自分が彼の神であったなら。
そう思わない日がなかったことを家康は思い出す。
あの力、あの崇拝が己のものであったなら。
自分の一言に一喜一憂して、自分の一言で善にも悪にもなる。
自分が彼をそうするものであったなら。
叶わなかった願いは今、他人が叶えようとしている。
悔しい、あぁ、死ぬほど悔しい。妬ましいぞ元親。
あれは、秀吉以外にはなびかぬと思っていて、思い込んでいたからこそ保っていたのに。
家康は密かに拳を握り締めた。
「野郎どもも今は戸惑ってるみてぇだがな。あいつが悪い奴じゃねぇってのはわかってきてるみてぇだ。
そのうち慣れるだろう。諍いがないわけじゃねぇがなに、すぐ仲間扱いし始めるさ」
「はは、三成が海の男か。昔から知っている身としては想像がつかないな」
「言ってやるな。あれでも馴染もうと精一杯やってるみてぇだぜ。
こないだ俺ぁクソ真面目な顔をしたアイツに"私もアニキと読んだほうが良いのか"と聞かれて腹が捩れるかと思った。」
「呼ばせたのか?」
作品名:籠と海 作家名:u_to