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ジャンクヤードにて

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目覚めたとき、そこはスクラップ置き場の片隅だった。



『臨也』は何度かメモリにアクセスして、自分がここに居る意味を探ろうとしたのだが、記憶領域には確かなレスポンスを返すものが何も存在していなかった。ただ、圧倒的に空っぽなメモリが、無慈悲に電子信号を返すばかりだ。
どうやら、メモリはデリートされているらしい。その答えにぶち当たった時、臨也は理解する。


そうか、自分は廃棄されたのか、と。


立ち上がった。
足元がおぼつかない。
サビつきかけているのか、関節部分が耳障りな音を立てた。
平衡感覚がなかなか取り戻せなくて、臨也は己の内側に原因を探る。マザーボードは無事、電子回路も問題ない、各種感覚系システムもオールクリーン。記憶領域も、有り余るほど空いている以外に不具合はない。しかし、どうやらコアが一つ足りないようだ。
アンドロイドを動かす核(コア)。動力になるものだから、臨也のような高性能アンドロイドには3つのコアが存在する。その中の一つが抜け落ちている。
臨也は解決策を模索してしばらく思案した後、おもむろに、近くに無造作に廃棄されていたアンドロイドたちの中から、一番自分の型番と近いものを選んで、遠慮なくそこからコアを抜き取った。それになりえるのは、左の目だ。
真黒なそのコアを、無理やり自分の左目に据える。ぎりぎり適合範囲内だったようで、すぐに体を動かすのが楽になった。これで問題は解決された。
臨也はその目で、視覚機能を調節する。無理やり適合させた副作用か、左の目は白黒の世界しか映さないようだ。右の方はまだ問題なく使えるので、ちぐはぐな視界になるが、アンドロイドである臨也にはあまり関係のないことだった。視界など、ものが見えればそれでいい。
動き続けなければならない。
臨也は強く、強く思う。
自分は動き続けなければならないと。そのために起動したのだと。止まってしまったら、その時点でゴミになる。それは絶対に避けなくてはならない。臨也にはやらなければならないことがある。


・・・・・・を、××る。


メモリ領域の奥で何かが囁いた気がしたが、それは気のせいだったのかもしれない。それでも、臨也は歩き出した。そうしなくてはならないのだと、臨也の中枢神経が告げていた。
見渡す限り、一面のごみの山。基礎知識として組み込まれているデータの中から、「臨海ジャンクヤード」という単語がピックアップされた。世界有数のアンドロイドとロボットの生産国である日本は、島国であるがゆえに、ゴミを処理する面積を海の上に求めたのだ。歴史の教科書で図解にされていた出島のように、本土からたったひとつの道路でつながっているそのゴミ捨て場には、処理が容易ではない機械部品・・・とりわけ、不要になったアンドロイドが数多く投げ捨てられている。
仕方のないことだ、と臨也の基礎知識は言う。
ほんの少しの不具合で暴走が起こりえるアンドロイドなのだから、隔離されるのも仕方がないことなのだと。過去事例としては、新しいプログラムを組み込むテストをしたアンドロイドが研究所の中で暴れまわり、13名を殺傷するような大事件も起きている。そんなアンドロイドたちに立ち向かうには、人間は脆すぎる。
臨也はぐるりとあたりを見回す。
うずたかく積みあがったアンドロイドたちの亡骸を踏みつけて。
カチカチとアンドロイド同士で使える信号を送ってみたりもしたが、どうやら周囲には臨也以外の稼働アンドロイドはいないらしい。それはそうだろう、何しろここはスクラップ置き場。つまりは、ゴミ捨て場なのだから。
つまりこれらはすべてゴミであり、ゴミになったアンドロイドというものは、要するに壊れているのだ。動くはずがないし、動くならばこんなところに捨てられることもない。
では、自分は一体なぜ、ここに捨てられているというのだろうか。
臨也は何度か空白のメモリ領域にクエスチョンを投げたが、やっぱり明確な答えが返ることはなかった。
自分は動いている。
ならば自分はゴミではない。
ゴミではないのだから、動き続けなくてはならない。
臨也は歩き出した。一歩踏み出すごとに金属がガシャリと音をたてたけれど、それにかまっている余裕はない。優先順位の高い行動から、とマザーに問いかければ、答えはすぐにはじき出された。



・・・■■を、探しなさい。



空白のメモリ領域に、大きく大きく響くその命令は、強く臨也の行動に訴えかける。
探しなさい。
臨也はもう一度視覚を調整した。膨大で、恐ろしく積みあがったこのジャンクヤードから、どうやら何かを拾い上げねばならないらしい。計算ではじき出された面積と部品数を把握して、臨也は人間がするように肩をすくめて息を吐いて見せた。
途方もない数字だ。
けれども、何が何でも探さねばならなかった。





ジャンクの山に囲まれて、一心不乱に何かを探し続ける日々。何を探しているのかも分からないのに、ただ、動き続けなければ死んでしまうと思った。
生きてもいないのに。
臨也は動き辛いパーツを他のアンドロイドのものと勝手にすげ替える方法を覚えた。雨が降り出したときには逃げ込める巨大なトレーラーロボの場所も把握した。服装を整えることも覚えた、捨てられたばかりのアンドロイドから適当に奪えば良い。さまよい歩きながら、時に人間のように座り込んで休む。別にそんなことをしなくても、ソーラーバッテリーによって半永久的に動き続けられる臨也は疲れることなどないけれど。
無音で埋め尽くされたジャンクヤードに、自分の靴音以外の音は風の音くらいしかなくて、強いて言うならばそんな状況が負担なのだろう。
・・・そんな風に思うこと自体、おかしなことだ。人間でもないのに。
時折、廃棄物を積んだトラックが現れて新たなゴミを増やしていったけれど、近づくことはしなかった。うっかりあの廃棄の波に飲まれてパーツが壊れても困る。
来る日も、来る日も、繰り返し。
臨也はさまよう。何度でも同じ場所を行き来して、最初にいたあたりから徐々に範囲を広げながら、ただ何かを探して必死に視覚を駆使し、ときには廃棄の山を崩して、散らばったパーツたちを拾って捨てて。
違う、これじゃない。
手に取れば確かにそう思うのに、では何を探しているのかと問われれば、それにはっきりとした答えを返せないまま、ただ空白のメモリを使って、今日探した場所を塗りつぶす。
気が遠くなりそうなその作業に、手のパーツはすぐにぼろぼろになってしまうから、新しそうな手を見つけたらスペアとして取っておくことも覚えた。
あれも違う、これも違う。
様々な部品を手にしては投げる。
まだ、見つかっていない。
探し物がなんなのか、覚えていないけれど。
ジャンクは毎日増えていく。時々人間が部品を漁っているけれど、彼らは臨也を同族と思うのだろう、話をすることもない。臨也の基礎メモリは、彼らを「ジャンク屋」と判断する。違法にパーツを扱う業者だ。ならば関わらないほうが臨也の為でもあった。何しろ自分は動くアンドロイドだ、彼らにつかまってそのものを売り物にされても困る。
そういえば、はて、自分の声はどんな声だっただろうか。
声帯機能をリサーチ。
作品名:ジャンクヤードにて 作家名:夏野