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【夏コミ・グッコミ新刊サンプル】はいははいに

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 闇により近い空気に当たっても、やはり雲雀の息苦しさは変わらない。
 きっと隣にこの人がいるせいだ。

 気に入ったと思うほど、髪も掌も瞳も、こそばゆく手上手く欲することが出来なくなってしまう。俯いたまま、またもとの闇の根城へと一歩踏み出したとき、去っていく雲雀に彼が別れの挨拶の変わりに問いかけを投げかけた。

 「お前の目に映る世界は美しいか?」

 神父の問いかけに答えず、雲雀は夜風に髪を揺れさせた。
 雲雀が歩く道を灯しているのは月明かりで、闇色に染まった木の葉が風に擦れてささやかなざわめきを作り出す。いつもと変わらない、夜の色と音だった。
 観念的な問いかけも、明るく跳ねた雑談も、諭す穏やかな言葉も、全てが雲雀の中に蓄積し、日を追うごとにきらめきを増していく。

 明日になれば、明日が来てほしい、早く彼に会いたい。

 既に食欲は胃の中に押し込まれて、既に雲雀はディーノに会う理由を擦り替えざるを得なくなっていた。








 「少しずつ、だんだん、彼と会う時間も頻度も増えていって、気付いたら毎晩彼を尋ねるようになってしまった」 

 少年が語るのは、勿論全て過去のことである。
 それも昔、どれくらい昔なのか神父には類推できないが、おそらく通常の人間には考えられないほどの時間の積もった結果なのだろう。
 先ほどの語り始めの言葉には、神父が教科書でしか触れた事のないこの国の歴史が含まれていた。全て真実であるならば、途方もない時間の堆積を体験したこととなる。
 しかし疑いはなく彼の話すことは真実ということが、神父の真っ直ぐな背に圧し掛かり頭をもたげさせるように曲げさせた。
 吸血鬼は不老であることもよく知られた彼らの事実である。
 目の前に座る、日に焼けることもない白い肌をした少年は、小さな体でその膨大な時間を過ごしてきたのだ。言葉の節々に見え隠れする時間の重さは、時折神父の呼吸を苦しめた。
 もっとも、少年は与えられた告白の場に言葉を飲むこともなく、滑らかに過去を語っていく。
 「夜の生き物が、昼に生きる人を好きになってしまったんだ」
 少年の言葉は慟哭もなく落ち着いたもので、神父は組んだ手にじっとりと汗を掻く。神の言葉以外を、このように反芻して胸に染み込ませていくのも稀だった。

 「その人を、好きになってしまった」

 閉じた瞼は柔らかそうに見え、薄い呼吸が風のように神父の耳に入る。
 生きている人間の呼吸が確かに聞こえるのに、彼は死んでいて、別の生き物として生きている。その矛盾は悲しさを帯びているような気がして、神父は彼と対照的な大きな呼吸を吐いた。
 神父がまったく触れたことのない生き方を、彼は当たり前のようにいままで行ってきたのだろう。
 人間としての感情を、そっくりそのまま体に宿したことは、とてもとても歪だ。限りがある生の中でなら、その激しさに肉体が耐えうるだろうが、彼らの身体には限界が設けられていない。
 何の罰と定められたわけでもなく、滂沱とした感情と長い時間戦っていかないといけないのだ。