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西園寺あやの
西園寺あやの
novelistID. 1550
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お兄さまとクリスマス

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でも、安心してそれを思い出せるのは、幸せである証拠だと思う。どれほど哀しい気持ちになったとしても、顔を上げれば優しい眼差しがある。慈しみ、愛おしんでくれる腕がある。そうして全てを分かち合ってくれる相手が傍らにいる。
下を向いて雪を踏みしめ、冷たい空気をすり抜けるようにして歩いていく。
二人して押し黙ったまま、なにも言わなかった。ざくざくと雪を踏みしめる足音と、風の音だけが響く。
クリスマスは家族だけで過ごす。
兄は自分もそれを願うと共に、人にもその機会を与えようとしている。クリスマスはいつもの山小屋に籠もるから、仕事もしない。手伝いも身の回りの世話も必要ない。だから邸の家人は全て、自分が過ごしたい相手と共に過ごすのである、と。
年越しは国民の祭りに参加をするから、二人だけというわけにはいかない。だから、クリスマスくらいは共に過ごそう。必ず予定は空けるようにする。あとは夏に休暇が取れた時もだ。我々だけで暮らしていた頃を、たまに思い出すのも良いことだと思うのである。
要約するとそういう趣旨の内容を、時間をかけ余分な言葉を多く挟み、喉を痛めてしまうのではないかと思うほどに咳払いも繰り返しながら、兄は伝えてくれた。その証として、山小屋を贈ってくれた。
どれだけ嬉しかっただろう。
もう二人だけの暮らしには戻れないし、戻るつもりもない。だが、昔の記憶をなかったことにしてしまうには寂しすぎた。
年に一度だけでも想い出に浸り、兄との絆を確かめ合う機会が持てることを感謝した。
兄も同じ気持ちだったのだと知り、愛おしさが膨らんだ。
小さな山小屋で二人きり。あたたかい暖炉と美味しい食べ物。毎年ひとつづつ買い足して増えていくツリーのオーナメント。静かで幸せな時間。
私たちがいつも幸せでありますように。
それ以上に、私たちを形作る世界の人々が、みなそれぞれに幸せでありますようにと。
祈りを捧げながら、二人で年月を重ねていく。



『……お前と暮らし始めてから、ほんの少しであるが優しくなれた気がする』
日々の中に幸福はあるのだと知った。最初に山小屋で過ごした夜、そんな風に兄が話してくれた。
その時にはまだ、うまく伝えることができなかった。だがいまならはっきりとわかる。
優しいひと。最初からずっと優しかった。
溢れるような優しさと慈しみ。なにもかも与えてくださった。
私と暮らしたから優しくなれたなんて。きっと嘘。それが本音だとしても、気づいていないほんとうがある。
あなたの奥底には、元々優しさが眠っていた。それをあらわす機会が訪れなかっただけのこと。
いとしさが尽きることはない。だからこうして、ずっとずっと傍にいる。
いつのときも、それをあなたに伝えたいと願う。



山小屋に到着すると、入り口前の木の階段の下で、スイスは荷物を全て雪の上に下ろし始めた。それからリヒテンシュタインのバスケットも受け取ると、それも置いてしまう。
「雪が積もって滑りやすいからな。危ないのである」
そう呟き、スイスは身軽になった状態でリヒテンシュタインの手を取った。されるままにリヒテンシュタインも身を寄せ、共に階段を上がっていく。
それほど段数があるわけではない。過保護なことこの上なかったが、リヒテンシュタインは逆らわない。
転ぶこともなく無事に階段を登りきり、手を離すと、スイスは山小屋の扉を開け、中へ入るようにと手振りで促した。
「かまわぬから先に入っているがよい。扉は開けておいてくれ」
開けた扉を固定させると、そのままスイスは荷物を取りに向かうため、リヒテンシュタインに背を向けた。
「……兄さま」
階段を数段降りた場所で、スイスは振り向いた。
片手を手摺りに。片手をスイスの肩に置くようにして添えて身をのりだし、冷たく冷えた唇を合わせる。
スイスは目を大きく見開いた。とっさに腕を伸ばし、リヒテンシュタインの身体を支えるようにして受け入れる。
触れ合わせるだけのキスが精一杯で、それ以上のことは出来ずにリヒテンシュタインは顔を離した。
自らの行動に戸惑い、なにも言えずにただスイスの顔を見つめている。そんなリヒテンシュタインの様子に焦れたように、スイスは段を上り、胸元へ抱き寄せる。
「……もう少し、こうしていてもよいか」
言葉も返せず、スイスの身体にしがみつき、何度も頷いた。その拍子に、頭に被っていた白い毛皮の帽子が脱げ、転げ落ちる。
やんでいた雪がちらちらと降り出した。
他には誰もいない。静穏な雪原の中で互いの身を離さぬように、離れがたいように鼓動と吐息を合わせ、なにかから庇い合うようにして。二人はいつまでもしっかりと抱き合っていた。