言葉の魔法
うっすらと目を開けた俺の視界に白い世界が広がる。
自分のおかれている状況を確認するべく、目を見開いた。
視界を覆った白い色は天井だった。
天井が見えるということは、俺は寝かされているのか。
見えている白い天井は医務室を思わせたが、医務室のベッドとは違っていた。
ベッドの広さは違うようだし、寝心地も全然違う。俺の記憶にはない場所のようだった。
ゆっくりと体を起こそうと腕に力を入れてみると、激痛が走った。
俺は怪我をしたのかな?
何とか身体を起こし、腕を見てみると包帯が巻かれていた。胴体もぐるぐる巻きにされている。
「誰かいるのかな…」
ベッドから降りて、立ち上がろうとしたが、足にも鋭い痛みが走って、バランスを崩した俺は思い切りひっくり返った。
ガターンと大きな音がして、俺は慌てた。
立ち上がりたいけど、足には力が入らない。
どうしよう…、助けを呼ぶっていうのも変だし…。
「クラウド!」
そう叫びながら部屋に飛び込んで来たのはセフィロスさんだった。
「セ、セフィロスさん!?」
「大丈夫か?」
「あ、あの…」
俺はさらに状況が掴めずにいた。
セフィロスさんがすぐに飛び込んでくるなんて、俺、一体、どこにいるんだ?
セフィロスさんは俺の横にしゃがみこんで、小さい声で、余り心配させないでくれ、と呟くと、いきなり俺を抱き上げた。
「セ、セフィロスさん…」
「心配することはない。しばらく安静にしてればな」
そのまま俺はベッドに戻され、セフィロスさんは、ザックスに何か言うと、部屋から出て行ってしまった。
「何で、言わねぇの?」
ザックスは俺に水を差し出しながら、不思議そうな顔で尋ねてきた。
俺は何のことだか分からなくて、首を傾げた。
「そんなに好きなのに」
「ザ、ザックス!」
「ホントのことだろ? 気になってしょうがないから、訓練にも集中できない」
あ、そうか。俺、訓練中だったっけ。
なのに、ちょっと違うことを考えてて、この有り様だ。
「…俺…、どうしたらいいかな…」
ザックスの言うとおり、好きだと伝えることも、逆に何も言わずにいて、普通に振る舞うことも出来そうになかった。
「クラウドが自分で決めるしかないな」
「…そうだよな」
「まあ、俺なら間違いなく言うけどな」
「でも、俺、男だし、セフィロスさんと釣り合うような人間じゃ…」
「それはクラウドが決めるんじゃなくて、だんなが決めるだろ」
ザックスは、部屋のすみにおかれた椅子を引っ張って来て、ドカッと座った。
動作が大きいのは、おおらかな性格の表れかな、と思う。
俺もザックスみたいな性格だったらな、と呟くと、だんなには惚れてもらえないぜ、とザックスは苦笑した。
「クラウドが伝えるか伝えないかは決めればいい。ただ、伝えないのはもったいないと思う」
「もったいない…?」
「その『好きだ』っていう思いを捨て続けるってことだろ? きっとクラウドの好きだって思いの詰まってる箱は、蓋が閉まらない状態のはずだ。その中身を渡さない限り、しまおうとしている思いは入らない。と、なると捨てるしかないだろ?」
確かにザックスの言うとおりだってことはわかるけど、そう簡単に行動に移せるわけがない。
「同じ捨てるなら、箱ごとだんなに押し付けて、好きにしてもらえば?」
その箱を渡す勇気があるなら、とっくにそうしてるよ!
「まあ、だんなが動くべきなんだけど、だんなも不器用だからなあ…。待っててもなぁ」
セフィロスさんが不器用? あの何でもできちゃう人が?
「ザックス?」
腕を組んで何か考えていたザックスは急に声を上げた。
「よし、だんな、呼んでくるから、ちょっと待ってろ」
「えっ! いや、ちょっと、ザックス! 待てって!」
ザックスは、俺の制止など無視して、部屋から飛び出していった。