言葉の魔法
こんな身体じゃなかったら、今すぐ逃げ出してやるのに。
満身創痍で動けないから、どうしようもない。
セフィロスさんを連れてくると言ったザックスは、まだ戻って来てない。
何だか時間が凄くゆっくり流れてる気がして落ち着かなかった。眠ってしまおうと思ったけど、緊張の余り、眠れるわけなどなかった。
どうやったら、この状況から逃げ出せるんだ!
と、叫びそうになった時、ドアをノックする音が響いた。
「入るぞ」
セ、セフィロスさんの声だ! 何でザックスじゃないんだ?
「は、はい」
うわぁ、口から心臓が飛び出しそうだよ。ザックスのバカ!
「ザックスがクラウドがうなされてると言ってたが、大丈夫か?」
いつ俺がうなされてたって言うんだよ! 余計にセフィロスさんに心配かけさせて…。
あれ、心配してくれてるの? そう言えば、さっきも心配かけさせるなとか、聞こえたけど。
「あ、あの、すみません…」
「何が?」
セフィロスさんはさっきまでザックスが座っていた椅子に静かに座った。動きに無駄がないとはこのことだな。
「ご心配おかけしまして」
「全くだ、と言いたいところだが、俺にも責任がある」
「セフィロスさんが悪いわけじゃ…!」
怪我のことを忘れて、起こした身体が悲鳴を上げる。
その痛みに俺は身体を操れなかった。
前に倒れこんだ俺の身体はセフィロスさんに受け止められた。
「考えて動け! 酷だとは思ったが、今回はわざと完治させてやらなかったんだ。少しの判断ミスが、これほどの痛みをもたらすんだということを覚えこませるためにな」
「…すみません、セフィロスさん……、あ、あの、セフィロスさん?」
セフィロスさんは抱き止めた俺の身体を離してくれなかった。
俺の心臓の音が聞こえちゃうよ〜!
「俺がもう少し考えてやるべきだったな。ザックスにこっぴどく叱られた」
ザックスってば怖いもの知らずだな。セフィロスさんを叱るなんて。セフィロスさんが悪いわけじゃないのに。
「悪かったな」
「い、いえ!自分の未熟さが招いたことですから。本当に申し訳ありませんでした」
「いや…」
セフィロスさんはそれっきり黙ってしまったけど、俺は抱き止められたままで、身動きが取れない。
どうしよう、どうしたらいいかわかんないよ…。
…あれ…?
今日も甘い香りがする。
バニラの香りは気を引くための魔法だ、ってセフィロスさん、言ってたなぁ。
気を引きたい相手はホントに俺なのかな。
考えてもわかんないや。
でも、俺はセフィロスさんのこと、好きなんだし、気を引きたい相手が俺じゃなくても、好きに変わりがあるわけじゃないし。
この香りも、長くてきらきら光る銀髪も。包み込んでくれるたくましい腕も何もかも好きで、とっくに魔法にかかってるんだ。
「…好き…」
「何が?」
ああ、この低い声も素敵すぎ。
「…セフィロスさんが」