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Will soon be over.

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今日もまた体を壊す寸前まで特訓を続けた後、同じく特訓を重ねてふらふらと廊下を歩いている佐久間の後を歩いた。荒い息をつき、壁にもたれかかるようにしてロッカールームに向かう佐久間に手を貸すようなことはしない。既に自分も人を助ける余裕がないほどに消耗しきっているのとは別に、佐久間に手を差し伸べたところで凄まじい形相で睨みつけられ、その手を不要なものとして跳ね除けるということを身をもって知っているからだった。手を跳ね除けられることが嫌なわけではない。問題なのは以前そうして手を出したときに佐久間は源田の手を叩き落とした反動で派手に転び、余計に足を痛めたことがあるということだ。転ぶ前に支えてやろうとしたのだが、その時すでに源田は源田でほとんどの体力を特訓で使い果たしていたために佐久間が転倒するのを止めることができなかった。佐久間を佐久間を傷つけることは源田の本意ではない。手を出さない方が却って佐久間を傷つけないで済むのなら、と源田は練習後の佐久間に手を貸すのをやめた。
 ずるずると体全体を引き摺るような佐久間の歩みは遅く、しかし振り返ることはない。佐久間が源田の存在に気が付いているかは甚だ疑問だ。以前の帝国学園にいたころの佐久間であれば、「さっさと行け」「いちいち付いてくるな」「馬鹿にしてるのか」といった言葉が浴びせかけられるような気がしたが、今の佐久間には余計な言葉を一つでも話す余裕はないように見える。
 あえて無視しているのかもしれないと思いながらも、源田は佐久間の神経を逆なでないように足音を殺して歩く。
 しかしそろそろロッカールームの前、という所で佐久間は大きくバランスを崩した。
「……ッ」
「佐久間!」
 物が床に叩きつけられたような音が耳に入ってから、源田は佐久間の元に駆けつけた。膝を打ち付けたのであれば心配だ。あれだけ足を傷めつけた後に大きな衝撃があれば佐久間の足は本当に壊れかねない。
「大丈夫か」
 うずくまったまま動かない佐久間に声をかけるが返事はない。床に倒れ込んだ上半身を起こそうとすると自分の腕にも相当の痛みがあったが、それを堪えて佐久間を自分の腕の中に収めた。気を失ったのか、ぐったりと力を抜いて目を硬く閉じた佐久間の顔色は悪く、唇も土気色をしている。体中びっしょりと汗をかいていて、風邪を引いているときのように体が熱かった。
 気を失っている以上、早く寝かせた方がいいだろう。自室にも着替えならある。ロッカールームに寄るまでもないと判断し、動かない佐久間を持ち上げようと腕に力を込める。さっき佐久間の上半身を起こそうとした時とは比べ物にならないくらいの激痛が腕に走り、こめかみから嫌な汗が流れて床に落ちた。佐久間はここに来てから練習ばかりに打ち込んで、まともな食事を取っていた覚えがない。以前よりも体重自体は軽くなっているはずだが、今は自分が受けているダメージが大きすぎた。
「――優しいねぇ」
 佐久間を前に悪戦苦闘している源田の背中に言葉とは裏腹に冷たい声がかけられた。振り向かずとも声の主はわかっている。
「……不動。なんの用だ」
「本当は自分だって立ってるのが精一杯なくらいばててるくせに」
「なんの用って、チームメイトが具合悪そうにしてたから見に来てやっただけさ」
「悪趣味だな」
 源田はどうもこの不動という男を好きになれずにいた。嫌悪感を明らかにして腕の中の佐久間を不動から隠すようにして抱きかかえる。
「試合では四回は打たせる」
「……そうか」
 佐久間の必殺技、皇帝ペンギン一号のことだろう。血の滲むような特訓を繰り返して佐久間がようやく打てるようになったそれは、一試合で三回打てば二度とサッカーの出来ない体になると言われている。今日、佐久間が打ったのは一度。一度だけにもかかわらず佐久間がこんなにも疲弊しているところを見ると、その話はおそらく本当なのだろう。
「へえ、止めないのか」
「何を」
「てっきり、佐久間にそんなもの打たせるなって、そう言うと思ってた」
「……佐久間が打ちたいのなら俺は止めない」
 不動の言葉に適当に応え、源田は佐久間を半ば引き摺るようにして自室へを向かう。佐久間の体にも自分の体にも相当の負荷をかけているのだということはわかっていたが、それでも一刻も早く不動の側を離れたかった。
 なぜだろう、
「お前、わかってるんだろ」
「何が」
「そいつが本当に四回シュートすれば、もう二度と――」
「俺は、」
 なぜ、不動に向かってそんなことを言ってしまったのかわからなかった。
「……俺は、サッカーをやってる佐久間だけが好きなわけじゃない」
 振り返ってそう告げる。
「ハハハハハ! そーかよ、お前、とんでもない卑怯者だな! 本当はお前、佐久間が壊れればいいと思ってるんだろ!」
 不動はその場で腹を抱えて笑い出した。
「サッカーなんて二度と出来ないようになればいいって! 二度とサッカーなんて出来ないように、二度と鬼道に佐久間を取られないようにってな!」
「……勝手に言ってろ」
 笑っている不動から目を逸らし、源田は再び佐久間を抱えて歩き出す。
 鬼道――帝国学園を、なによりも佐久間を裏切った男。
 源田は元々鬼道と親しかった。だから鬼道が何を考えて雷門に入ったのかも、鬼道が本当に自分たちを捨てたわけではないことも薄々はわかっている。しかしなぜだろう、不動が病室にやってきたあの日から何かがおかしくなった。
 そして、それは佐久間も同じようだった。佐久間は鬼道を心から敬愛していた。敬愛していたからこそ――鬼道に本気で裏切られたのだと信じこんでしまっている。鬼道に捨てられてのだという悲しみがいつしか怒りや憎しみへと変わっていく様子を、佐久間が次第にその心をすり減らしていく様子を、源田は誰よりも側で見ていた。
作品名:Will soon be over. 作家名:香坂