Will soon be over.
やっとのことで自室にたどり着き、佐久間を自分のベッドに寝かせる。背中をベッドにつけた瞬間、佐久間は苦しそうに呻き声を上げた。
「き、どう……さん……」
「……佐久間?」
名前を呼んでみたが佐久間は目を覚ましたわけではないらしく、硬く目を閉ざしたままだった。佐久間が鬼道の名前に敬称を付けて呼んでいるのを聞くのは久しぶりだ。ベッドの縁に腰掛けたまま濡らしたタオルで佐久間の額や首筋の汗を拭ってやりながら思う。
「佐久間、佐久間」
呼びかけてもぴくりとも動くことのない佐久間の首筋に触れると、自分でも信じられないくらいの凶暴な気持ちがこみ上げてくるのを感じた。このまま力を込めて締め上げれば、折れてしまいそうな細い喉。しかし源田はその凶悪な気持ちを心の中に抑え込み、ゆっくりとした動作で佐久間の左目から流れている涙を拭った。
「佐久間、もうすぐ終わる。もう、苦しむのは終わりだ」
自分の気持ちが不動の言っていたそれと大差ないことには気が付いていた。いや――今、自分が考えていることは不動の言葉よりも酷いものなのかもしれない。
佐久間の足は限界だろう。これでは不動の言うとおり、四回――いや、これまでの過酷な特訓のことを考えれば三回だって打てるか怪しい。
しかし、それこそが自分の望みであることは間違いなかった。
「もう追いかけなくていい。鬼道を追いかける必要なんてなくなる」
それは鬼道から最も遠い場所へ佐久間を連れて行くための、最も簡単な方法だった。もう二度と鬼道を追わないように、追えない場所へ佐久間を連れて行く。
佐久間の苦しみをここで永遠に断ち切ることが出来るのなら、自分も同じ道を選ぼうと決めたのは不動が病室にやってきたその日のことだ。あの日、あの光に包まれた瞬間、佐久間のためならば自分の腕の一本や二本など悪魔に売り渡しても構わないと心から思った。
「悪いな、鬼道」
そして友であるはずの鬼道を初めて、憎んだ。
作品名:Will soon be over. 作家名:香坂