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みとなんこ@紺
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BLACK SHEEP

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さて、それから数日ののち。

なにやら凶悪犯が住宅街に逃げ込んでいたとかで、深夜の銃撃戦などというものもあったが、それはすぐに軍に鎮圧され、橋も異例のスピードで修復が完了したとかで、イーストの街は数日振りの明るい空気に包まれていた。
が、それは街中及び一仕事終えた司令部の中だけのことであって、一部ではまだなにやら暗雲が垂れ込めている。
それはほんのごく一部の地域。主にその司令部の中の、司令官の執務室であるというちょっと微妙な場所だけのことではあったが。
「協力に感謝するよ、鋼の。橋の安全確認も終了し、列車も運行を再開したらしい。今頃中央行きの列車はごった返しているだろうね」
君も足止めを食っていたくちだろう?チケットの手配は任せてもらえるかな。ご希望ならすぐ用意しよう。行き先はセントラルまでで良いのかね?
とかすべらかに続けられる言葉なぞ子供は聞いていなかった。
にこにこにこー、と。いっそまぶしいくらいの満面の笑顔を向けられたが、それを受け取る側の子供は反比例するようにぎゅぎゅぎゅー、と眉を寄せた。
暗雲の発生源と化していたのはその金色の子供だったが、相対する大人は一点の曇りもありません、みたいな表情を崩さない。
それがこの上官の、これ以上の詮索は無用です、との意思表示だと知っている子供にいたっては大変に面白くない。
あれだけ何だか微妙な空気を吸わされて、肉体労働もさせられて、しかも容疑者逮捕にまで貢献したというのに詳しい説明は端折られて。
挙句、



東方司令部に内通者なぞおりませんでした。
別件で手配されていた者の潜伏先を検挙したら、裏賭博場を検挙して、ついでに手配人数名を逮捕できました。
かつ、それに貢献した伍長は一身上の理由により退役いたします。



って、なんだそりゃ、である。
何だかこう、しっくり来ないのはどうしようもなく。
「・・・君が何を言いたいのかは判るがね」
小さな一言が耳を掠めて、エドワードは顔を上げた。
それまではエセ臭い笑顔だけを浮かべていた黒髪の上官が、苦笑めいたものを浮かべてこちらを見ていた。
「これ以上踏み込んでこられても面倒なだけだ。これ以上関わらせない為なら何とでも言うさ」
「・・・・・・。」
・・・これが、恐らく他から妙な詮索をされない纏め方だということは、いい加減軍に関わって長い兄弟たちにも分らなくはない。探られて痛い腹は誤魔化すに限る。
取り合えず、普段はあのエセ笑いで押し切ってくるだろう上官が漏らした一言に免じて、今回は引いておく事にする。
「・・・ノースフォーク」
取り合えず、心にいつもメモ帳を。今回のこれは貸し1換算で。
エドワードはソファに我が物顔でふんぞり返ったまま、一つの地名を告げた。
「ノースフォーク?…また懐かしい名前だな」
「嬉しくねぇ記憶がてんこ盛りだっての。でも用事あんだから仕方ねぇじゃん」
じゃ、そこまでの切符、手配よろしく。
それまで図書館とかブラブラしてるから、と弟を促したエドワードはトランクを手に席を立った。
失礼します、と弟の律儀な退室の声を聞きながら、副官に伝えるべく受話器を取り上げようとした彼と、扉に手を掛けたまま振り返ったエドワードの視線が交錯する。
「・・・案外アレじゃねーの?」
「何だね」
「上層部にとっての黒い羊ってあんたじゃねぇの?」

男にだけ聞こえただろう声だった。
だが、ほんの僅かな間を置いて、彼は今度こそ鮮やかな、作り物ではない笑みを浮かべた。



「――――何をいうかね。こんなに従順で使える羊を捕まえて」



「・・・あんたほんとにアツいよな」
「心が?」
「ツラの皮だっつの」
「・・・君に言われたくはないなぁ」

はいはい、と取り合う様子も無く、今度こそ子供は手を振って去っていった。
作品名:BLACK SHEEP 作家名:みとなんこ@紺