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極東基地の密かな攻防

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 してその頃、キリヤマとクラタは廊下を並んで歩いていた。仲良く談笑しながら基地内にある隊員食堂へ向かう。先程作戦室によった時、丁度キリヤマの勤務時間が終わりを告げたので、後の事を交代の隊員達に任せて、まず食事をすませる事になったからだ。
 食堂に着き、手ごろなテーブルに腰を下ろした所で、キリヤマが思い出したように口を開いた。
「そう言えば、マナベ参謀に呼ばれて参謀室に入ったんだったな。それなのに用件を聞かぬまま出てきてしまった。…お前のせいだぞ。いきなり入ってくるから忘れてしまってたじゃないか…!」
 自分を睨んでくるキリヤマに片手を振りながらクラタは答えを返す。
「どうせ対した用事じゃないさ。俺達が退室する時何も言わなかった。つまり、参謀もその事を忘れてたって事だからな」
 マナベの用件を知っているクラタは気楽なものだが、キリヤマは流石に「はいそうですか」と放り投げる訳にはいかない。思い出した途端、用件の内容が気になりだしたキリヤマは、参謀室に戻ろうと腰を浮かしかけた。
 それに気付いたクラタが、椅子の背に身を預けたまま煙草に火をつけ、気軽に制止の声を上げる。
「行かんでもいいさ。本当に重大な用事なら向こうから放送でもかける」
「しかしだな―――」
「まぁ一服でもして落ち着け」
 と、クラタがキリヤマに煙草を差し出した時だった。
「隊長!」
 急に食堂内に響き渡った声に、キリヤマ・クラタ両隊長は同時に振り返った。声がした方向―――食堂の入り口に、隊員服を身につけた男が四人立っていたが、こちが気付くと同時にバタバタと駆け寄ってきた。
 二人のテーブルまで来ると、皆一様に切羽詰ったような焦った表情で自分達の隊長=キリヤマを見下ろした。
 ウルトラ警備隊隊員=フルハシ・ソガ・アマギ・ダンを見上げ、彼等の様子に只ならぬ雰囲気を感じたキリヤマは、表情を引き締め立ち上がった。
「一体どうしたんだ?」
 その問いに答えたのはフルハシだった。
「どうもこうもないですよ、隊長!!」
 彼は一番平常心を失っている様子で、唾を呑み込みながら畳み掛けるように答える。
「我々は本当に隊長の事をですね、心配してるんですよ!隊長は戦いにおいては名将ですが、こういった事には不向きと言うか何と言うか―――」
「一体何を言っているんだ?」
 フルハシの言いたい事がさっぱり解らないキリヤマは、まだ冷静そうなソガに視線を移した。それを理解して、ソガが口を開く。
「フルハシ隊員の言った事は気にしないで下さい」
 そう、前置きをしてから、
「自分達は隊長に用があってきたんです」
「その用とは何だ?」
「実は―――」
 ソガの隣からアマギが口を挟んだが、彼の話は本筋に入る前に遮られる事となった。
「ちょっと待て!」
 鋭い声がキリヤマと隊員達の間に割り込んできたので、五人は自然と声がした方へ視線を向けた。
「何だ、今度はお前か、クラタ」
 左手を上げて静止するよう言っているクラタに、キリヤマは半ば呆れたような表情をして見せた。しかしそれには構わず隊員達をキッと睨みつけるクラタ。
 威圧感を与えるように一人一人順に見ていきながら、地を這うような低い声を出す。
「まさかお前達…、俺に喧嘩を売ろうと考えてるんじゃないだろうな…?」
「何を言い出すんだ、クラタ?」
 キリヤマには意味不明だったフルハシの台詞も、クラタには明確なものだった。
「俺の行く手を阻むつもりなんだろ?」
 幸運にもキリヤマの部下に―――同じ隊に入れた男達に不敵な微笑を向け、クラタは確認を取るよう、重ねて問いを投げた。誰も頷きはしなかったが、対抗するような瞳をクラタに向け、彼の問いを肯定した。
「やっぱりそうか…。だが、貴様等に負けるV3隊長じゃないって事を教えてやるよ」
 そう言いながらウルトラ警備隊隊員達に近付くクラタ。その只ならぬ雰囲気に、旧知の仲であるキリヤマは彼が暴走しそうだという事を知った。慌てて部下達と旧友の間に立ち塞がり、落ち着けと、クラタの両肩を強く掴む。
「いきなり何をするつもりだ?!ここは訓練場じゃないんだぞ!」
「そんな事は解ってる。俺は俺の邪魔をする奴を排除するだけだ」
「フルハシといいお前といい、さっきから何訳の解らん事を言っているんだ!」
 キリヤマの言葉にフルハシはちょっと傷付いたが、誰もその事に気付かないまま話は進む。方や、久し振りに愛しい人に会ったから一晩かけてゆっくり関係を深めたいクラタ。方や、そんな彼の魔の手から敬愛する人物を守りたいウルトラ警備隊四人。双方の意見は平行線のまま、近付く事がないように見えた。
 ところが―――
「キリヤマ隊長」
 再び食堂の入り口近くから、キリヤマを呼ぶ声が届いた。皆が振り向くと、そこにはウルトラ警備隊最後の一人が立って、真剣な表情で六人を見ていた。
「アンヌ隊員?」
 不思議そうに彼女を見つめる同僚達。そんな彼等を尻目に、ウルトラ警備隊の隊員服とは違う白い看護服を着たアンヌ隊員は、キリヤマに近付き彼女独特の敬礼をして見せた。それに頷いて返しながら、キリヤマは軽く嘆息した。これ以上訳が解らない事を言われるのは御免こうむりたい。
 そんなキリヤマの心中を知っているのか知らないのか、アンヌはいつもと少しも変わる所なく、いつもの口調で隊長に報告をした。
「隊長。先程メディカルセンターに運び込まれた患者に不審な点があるので、来ていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「不審な点?」
「はい。体が緑色に光るんです」
 途端、キリヤマの表情が引き締まる。鋭い光を瞳に宿しながら、キリヤマはほんの一瞬思考した後、素早く頷き返した。それを確認すると、アンヌは踵を返し、メディカルセンターに向かおうと足を踏み出した。
 そこへクラタの声が上がる。
「おい、キリヤマ―――」
 予想もしていなかった展開に少々焦りの色を見せるクラタだったが、勿論、そんな事に気付かないキリヤマは旧友に振り返って、
「すまんが一人で食事をしてくれ。今晩付き合えるかどうか解らんが、俺の部屋で休んでくれ」
 とだけ言った。次にキリヤマは、呆然としている部下達を視界に入れ、
「お前達、何をぼさっとしてるんだ。何か事件が起こったのかも知れん。作戦室で待機していろ―――アマギとダンは俺について来い」
 それだけを命令すると、そのままアンヌを追い抜かしメディカルセンターに向かった。
「………」
 こうなってしまってはどうしようもない。親友の性格を良く知っているクラタは仕方なく腰をおろした。フルハシ・ソガ・アマギ・ダンの四人も、一応目的は達成されたのだから大人しく隊長の後に続こうとし―――
「……え?……」
 アンヌの不敵な微笑に気付き、思わずその場に立ち尽くした。
 食堂を出る寸前、緊迫した表情を見せていたアンヌが残された五人を見て、小馬鹿にするように唇の端を上げたのを、五人は確かに目撃した。
「…も…もしかして、さっきの報告は…」
 恐る恐る隣に立っているアマギを見上げながらソガが口を開いた。それを受け取るように、ダンが続きを呟く。
「キリヤマ隊長を我々から遠ざける為の嘘…」
「…やられたな…」
作品名:極東基地の密かな攻防 作家名:uhata