渋滞ぬけみちなし
「・・・あー」なんでてめえがしってんだっていう不審な目で見てくる。そんなことはどうだっていいだろと先をうながす。
「で、どうだったんだよ」
「あん?なんでてめえにんなこと教えなきゃ・・・」
「いいから」
「・・・断ったよ」
「なんで」
「・・・あぁ?んなこと決まってんだろうが。・・・俺が壊さねえって保障ねえからだよ」シズちゃんは気まずげに俺から目線をそらす。痛さをこらえるような顔をする。
「・・・じゃあさ」
「・・・なんだよ」
「俺を選べば?」
「・・・は?!」
「そしたら愛してあげる」
「・・・てめえ頭大丈夫か?」
「ていうか、愛してる」
「・・・や、あの」
「シズちゃん愛してるよ」
「あー・・・おまえ熱とか、」
「俺なら壊れないよ。俺ならシズちゃんが相手だって絶対に壊れないし潰れない。何度だって殺しあって生き残ってやるよ。そんで何度だって愛しあってあげる。どう?悪くないだろ?」
「・・・わかった、おまえまたなんか企んでんだな?」
「ちがう」ちがうよ信じて。「俺ほんとにシズちゃんのこと好きなんだよ」ガードレールの向こうを車が過ぎる。さっき降った夕立の残り水が跳ねて俺たちの足元を濡らした。シズちゃんは困ったような顔で黙り込んだままだ。赤く染まっていた空が暗く翳ってゆく。
「・・・臨也」
ようやく、といったかんじでシズちゃんがしずかに口を開いた。
「それがほんとなら、受け入れてやるよ」
「・・・え?」
「なに間抜け面晒してんだよ。おまえが言い出したんだろが」
「え、いやそうだけど・・・・・・俺だよ?」
「あ?わかってるよ」
「・・・いいの?」
「何度言わせんだよ。・・・まあ、おまえなら壊れなさそう、だしな」
そう言ってシズちゃんは少しはにかんだように俺を見て笑った。俺はシズちゃんの穏やかな笑みなんてはじめて見たので驚いた。点り始めた電灯が、赤く染まった俺の頬を照らしていた。