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昭和初期郭ものパラレルシズイザAct.8

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「はぁ、あっつー。」

如何にも風呂上がりの匂いをさせ
藍染めの浴衣一枚の千景が
店の前の床机に腰掛けた門田の横へ来て

「はいよ、オッサン。」

手に二つ下げてきたラムネの瓶を一本
門田に押しつけ
自分はさっさと指先一つで
それを開けて飲みながら
「あれ、飲まねぇの?」と
立て膝で門田に笑い掛ける

店はこれからが本番という時間
陽はようやく沈んだものの
まだ夜はこれからという薄い宵闇
色街の灯火が次々にともる頃

「お前は・・・。俺は甘いものは好かんといつも。」
「いいじゃんか。飲まねぇなら俺飲むし。」
「だったら最初から持って来るな。」
「だって飲む気になるかもしんねぇじゃん。」
「なるか。ほらお前が飲め。」

門田がもうさっさと1本目を飲み終えた千景に
瓶を渡そうとすると

「気が利かねぇなぁ。開けてよオッサン。」

千景が受け取ろうともせずに
膝の上に乗せた手で頬杖をついて言う

「はぁ?何故俺が?」
「いいじゃんか持ってんだしよ。開けて?」
「・・・しょうのねぇ。」

片手の指先だけでぷしゅりと
事も無くラムネの蓋を開ける男を
横から千景が湯上がりの髪を掻き上げながら
満足そうに見て口の端を吊り上げる

「ほら。開けてやったぞ。」
「ありがと、京平。」
「その呼び方は止せと言ってるだろうが。」
「なんでさ。いいだろ?」

店の姐さん達だって皆

「京ちゃんとか呼んでんじゃんか。」

千景は言って
少しばかり吹き出したラムネで濡れた門田の手を
腕ごと引き寄せてぺろりとその手の雫を舐め
驚いて瓶を取り落とした門田から
難なくそれを受けてラムネを煽る

「お前は・・・!」
「へへ。美味ぇ。」
「大人をからかうな!」
「からかってねぇし。本気だし俺。」
「第一店の前だぞ。ふざけるな。」
「まだ客来ねぇよ。」
「来るつもりでも見たら引くだろうが!」
「別に俺は困らねぇもん。親父が困るだけだしよ。」
「お前は・・・」

本当に
困った奴だなと門田は深い溜息をつく

千景はこの虎丸屋の一人息子であり
母親は千景を生んですぐに亡くなった為
母親の無い子を不憫に思う父親によって
また売れっ子女郎だった母親によく似た顔を持つが故に
父親に甘やかすだけ甘やかされて育ったお坊ちゃんだ

その上に
家は女郎屋と言う女だらけの環境で
故郷を離れて売られて来た心寂しい女達に
寄ってたかって甘やかされて構われて
ちかちゃんちかちゃんと可愛がられ
この世の女は皆俺のものくらいに思って居る

だがその一方で
他にも店を持つ父親は常に多忙で不在が多く
女達にとっても所詮は一時の気休めでしか無く
どんなに可愛がってくれた女も
客が来れば千景を放って相手をしに行き
身請けされれば喜んで店を出て行く
そして中には故郷に帰るものも居る

そんな中で育った千景は
独特の明るさと強さと人懐こさを身につけて
誰も千景が大人しく黙り込んでいるところなど
見た事が無かった

門田京平以外は




門田が最初に千景と会ったのは
この色街から
少し離れた盛り場での事だ
オイあっちで
凄ぇ大立ち回りやってんぞと
周囲で人が騒ぎ出し
巻き込まれてはやっかいだなと門田が思った時だ

すっと
横を通り過ぎた男の
何とも言えない冷えた空気に
門田は思わず身構えて
だがその男はただ通り過ぎただけで
門田には目もくれずに騒ぎの方へと
人混みの中へと消えた

後でその男こそがこの辺りを取り仕切る
粟楠会の四木という男だと解ったが
その時の門田はまだその事を知らず
まさか自分が女郎屋の用心棒になるとは
考えても見なかった
ただ何となく
通り過ぎた男の冷えた空気が気になって
騒ぎを覗きに行ってしまったのが
いわば運の尽きと言うものか

数人の明らかに堅気で無い男達と
たった一人でやりあっているまだ若い男
楽しそうにすら見える表情で身軽に動く男は
筋がいいと見えてなかなかの腕前だ
しかし所詮は多勢に無勢
やがて引き摺られて行く若い男の後を
追うつもりも無かったのだが
路地へ引き込まれた後を追い
散々に痛めつけられているのを
見るに見かねて声を掛けた

「おい、あんたら。」

もうそのくらいにしといてやんな?

「何があったか知らねぇが。ソイツまだガキだろ。」

いい大人が数人掛かりでってのは

「ちょいと卑怯じゃねぇか?」

門田の声と出現に
気色ばんで振り返った数人の男
その輪の中には加わらず
少し離れたところで腕組みをしていた男が
ゆっくりと門田を見た時
あぁコイツがさっきの男だ、と門田は合点した

「そういうそちらさんは何方様で?」

慇懃無礼にその男が言い
通りすがりのモンだと答える門田を
ジロリと男の鋭い目が射った

「・・・見たところ。相当の自信がおありのようだが?」
「自信なんぞ無ぇよ。ただの通りすがりだ。」
「ほう?ではこちらのお坊ちゃんとお知り合いで?」

男が顎でさす先には
殴られ蹴られボコボコにされて
それでも戦闘意欲を失っていない光の強い瞳が
殴られて形の変わった中から
きらりと光って門田を見て目が合うとふと笑った

コイツ
こんなボコボコにされてやがんのに
まだ懲りてねぇのか

門田はそのまだ少年と言っていい若い男を
呆れた思いで見る

「いや?何処のお坊ちゃんかも知らねぇな。」
「それはそれは。では本当の」

通りすがりでいらっしゃる

慇懃無礼なもの言いを崩さずに男が言い
ほんの僅か
男が顎先を横へ動かしたのを
その手下の男達よりも先に門田は見て取って動く

拳、肘、肩
かかと、膝、腰
頭と足の裏
道具が無くても門田に取っては全てが武器で
掛かってくる相手を片っ端からなぎ倒す

やがて
さすがの騒ぎに警察がやってきたらしく
手下に耳打ちをされた男が頷いてすっと手を挙げた
それを合図に門田に向かっていた男達は手出しを止め
まだのびている若い男の側にしゃがんで
冷えた空気のままに男が言う

「虎丸屋の坊ちゃん」
「今日はあんたの親父さんに免じてこのくらいに」
「ですがあんまりおイタをされますとね」
「幾ら坊ちゃんでも」
「この先は言わずともお解りですね」
「では」

立ち上がった男は
門田を一瞥すると
何一つ表情を変えることなくその場を立ち去り
手下の男達もそれに続いた




「オイ。そこのガキ」
「お坊ちゃんだか知らねぇが」
「イツまで芝居してやがんだ」
「起きろ」


「あれぇ?バレてた?」



溜息をつく門田の前で
今まで死んだようにぐったりしていた若い男が
血だらけの顔で笑ってぴょこりと跳ね起きる

「ったく。ちったぁ手伝え。手前の喧嘩だろうが?」
「だってよぉ。オッサン強ぇし。何処までやるか」

見てみたくなってさ

顔の血を袖で拭って笑う若い男は
まだ少年と言っていい若さだ

「ありがとよ。ちっとやっかいだったし。助かったわ。」
「礼は要らねぇが。ガキがやくざモンにたてつくな馬鹿。」
「俺負ける気無かったんだけど。」
「何言ってやがる。ボコボコにされて。」
「あれは作戦。オッサン来なくても」

油断させといて
返り討ちにあわせるつもりだったんだぜと
しゃあしゃあと言う少年は