本とビールと君の歌声
今日は朝から太陽が燦燦と輝いていた。
自国にはめずらしい日和を満喫すべく、ドイツは庭のテラスで読書を楽しむことにした。
暇を見つけては、敷石を敷き詰め(中に一つだけ壁石だったものがある)、座り心地のよいベンチを探し、花木やハーブなどを植え、こまめに手入れをして完成させた自慢のテラスだった。
あえて庭の少し奥まった所に作ってあったせいか、以前に日本を案内した時には「まるで秘密基地のようですね」と喜んでくれた。当然プロイセンやオーストリアは知っているので秘密でもなんでもないが、なんとなく言葉の響きに心を擽られるものがあり嬉しく思ったものだ。
木漏れ日の落ちるベンチ。優しく木々の葉を揺らす風。買い溜めていた数冊の本とビール。
ドイツはまさに快適な時間を過ごすことになった。
~ ♪ ~~~ ♪ ~~ ♪
ふと、懐かしい旋律が聴こえた。
どこから聞こえたのだろうと、読みふけっていた本に栞をはさむと周囲を見渡した。
しかし目に入るのは新緑美しい植物ばかりで、人の気配はない。
しばらく耳を澄ましていたが、聞こえたのは葉擦れの音ばかりだった。
気のせいか、と本を開いたが、
~ ♪ ~~~ ♪ ~~ ♪
また同じ旋律が聴こえてきた。今度は気のせいではない。
懐かしい曲だった。幼い頃を思い出させる、古い古いドイツ民謡だった。
ただ、記憶しているものとは雰囲気が違っているようにドイツは思えた。
一体誰が歌っているんだ?
まずプロイセンではない。それにオーストリアやイタリアでもない。それぞれ長い付き合いなので、声を聞き分ける事などドイツには朝飯前なのだ。
ハンガリーかとも思ったが、そもそも彼女とオーストリアは一緒に出掛けていることを想い出した。
~ ♪ ~~~ ♪ ~~ ♪
柔らかみのある優しい声色だ。
ドイツは声の持ち主が気になって仕方なかった。曲への違和感の正体も、知りたいと思った。
まずは手にしたままの本をベンチに下ろし、半分残っていたビールも飲み干した。
そして、途切れることのない旋律に耳を傾けながら、心地良いテラスを後にした。
~ ♪ ~~~ ♪ ~~ ♪
音を立てないように、ゆっくりと来た道を戻った。
耳に届く歌声が、大きく、近くなるにつれて、どうしたことか心臓の鼓動が激しくなる。
楡の木をかわすと視界が開けた。玄関の脇にある花壇に小さな人影が立っているのが見えた。
それは、意外な人物だった。
「リヒテンシュタイン?」
リヒテンシュタインが花壇の花々に水遣りをしていたのだ。
如雨露から流れ落ちる水が、日の光を反射してキラキラと輝いていた。
楽しそうに微笑む唇からは柔らかく優しい声色が奏でられ、彼女が如雨露を動かすたびにドレスの裾がふわりふわりと揺れていた。
それはまるで、物語にでてくるような幸福な一場面だった。
「ドイツさん?」
後ろを振り返ったリヒテンシュタインと目が会った時。
ドイツは自分の心臓が一際大きく鼓動する音を聞いたのだった。
自国にはめずらしい日和を満喫すべく、ドイツは庭のテラスで読書を楽しむことにした。
暇を見つけては、敷石を敷き詰め(中に一つだけ壁石だったものがある)、座り心地のよいベンチを探し、花木やハーブなどを植え、こまめに手入れをして完成させた自慢のテラスだった。
あえて庭の少し奥まった所に作ってあったせいか、以前に日本を案内した時には「まるで秘密基地のようですね」と喜んでくれた。当然プロイセンやオーストリアは知っているので秘密でもなんでもないが、なんとなく言葉の響きに心を擽られるものがあり嬉しく思ったものだ。
木漏れ日の落ちるベンチ。優しく木々の葉を揺らす風。買い溜めていた数冊の本とビール。
ドイツはまさに快適な時間を過ごすことになった。
~ ♪ ~~~ ♪ ~~ ♪
ふと、懐かしい旋律が聴こえた。
どこから聞こえたのだろうと、読みふけっていた本に栞をはさむと周囲を見渡した。
しかし目に入るのは新緑美しい植物ばかりで、人の気配はない。
しばらく耳を澄ましていたが、聞こえたのは葉擦れの音ばかりだった。
気のせいか、と本を開いたが、
~ ♪ ~~~ ♪ ~~ ♪
また同じ旋律が聴こえてきた。今度は気のせいではない。
懐かしい曲だった。幼い頃を思い出させる、古い古いドイツ民謡だった。
ただ、記憶しているものとは雰囲気が違っているようにドイツは思えた。
一体誰が歌っているんだ?
まずプロイセンではない。それにオーストリアやイタリアでもない。それぞれ長い付き合いなので、声を聞き分ける事などドイツには朝飯前なのだ。
ハンガリーかとも思ったが、そもそも彼女とオーストリアは一緒に出掛けていることを想い出した。
~ ♪ ~~~ ♪ ~~ ♪
柔らかみのある優しい声色だ。
ドイツは声の持ち主が気になって仕方なかった。曲への違和感の正体も、知りたいと思った。
まずは手にしたままの本をベンチに下ろし、半分残っていたビールも飲み干した。
そして、途切れることのない旋律に耳を傾けながら、心地良いテラスを後にした。
~ ♪ ~~~ ♪ ~~ ♪
音を立てないように、ゆっくりと来た道を戻った。
耳に届く歌声が、大きく、近くなるにつれて、どうしたことか心臓の鼓動が激しくなる。
楡の木をかわすと視界が開けた。玄関の脇にある花壇に小さな人影が立っているのが見えた。
それは、意外な人物だった。
「リヒテンシュタイン?」
リヒテンシュタインが花壇の花々に水遣りをしていたのだ。
如雨露から流れ落ちる水が、日の光を反射してキラキラと輝いていた。
楽しそうに微笑む唇からは柔らかく優しい声色が奏でられ、彼女が如雨露を動かすたびにドレスの裾がふわりふわりと揺れていた。
それはまるで、物語にでてくるような幸福な一場面だった。
「ドイツさん?」
後ろを振り返ったリヒテンシュタインと目が会った時。
ドイツは自分の心臓が一際大きく鼓動する音を聞いたのだった。
作品名:本とビールと君の歌声 作家名:飛ぶ蛙