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本とビールと君の歌声

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 名前を呼んでしまったことを後悔しながらも、二の句を継げることに必死だったドイツは、リヒテンシュタインをテラスへと誘った。
 返事を聞くまでの数秒間がとても気まずく感じたが、彼女は快諾してくれた。

 「素敵な場所ですね」

 嬉しそうに微笑みながらドイツを見上げるリヒテンシュタイン。
 その笑顔が見て、咄嗟の判断は間違っていなかったと胸を撫で下ろした。
 
 そういえば、このテラスに異性を招きいれるのは初めてだ。
 そのことにドイツが気づいたのは、二人してベンチに腰をおろしてからだった。
 もちろん、疚しい気持ちなど全くなかったが、二人っきりの空間というものに後ろめたさを覚えた。
 
 (こ、これは不可抗力であって断じてそのっ )

 心の内で誰かに言い訳してしまう自分がまた後ろめたかった。

 「あー、その。さっき歌っていた曲だが、」
 「まさかいらっしゃるとは知らず。お耳汚しでした」

 とにかく聞きたいことを聞いてしまおうとドイツから切り出したが、リヒテンシュタインは視線を逸らすと、顔を隠すようにして両手を頬にあてた。

 「いや、そんなことはない」

 ずっと聴いていたい声だとドイツは思った。
 だから、自分の不用意で彼女が歌うのを邪魔しまったことが残念でならない。
 
 そのことを素直に告げると、リヒテンシュタインは驚いたようにドイツの顔をみたが、すぐに「ありがとうございます」と、はにかみながら御礼を言った。
 その恥らいの混じった表情に若干の動揺しながらも、気を取り直して曲名を確認すれば、ドイツの思ったとおり、リヒテンシュタインはドイツ民謡を歌っていたのだと言う。

 『Ich bin ein musikante』(私は音楽家)
 歌詞は、シュバーヴェンからやってきた音楽家達が、トランペットやバイオリンなど約9種類の楽器が演奏できると言い合う内容で、各楽器の擬音を歌うのが楽しい曲となっている。

 「貴女が歌っていた旋律は、少し印象が違ったように思うんだが」
 「それは日本さんがアレンジされたものとあわせて歌っていたからです」
 「日本の?」

 思わぬ名前がでてきて、ドイツは驚いた。
 スイスを解して日本と交流することが多くなったリヒテンシュタインは、日本の文化にとても興味を持っていた。様々なことを教えてもらったが、その内の一つに日本の童謡があったそうだ。

 「初めてお聞きしたときには、正直わかりませんでした」

 何曲かチョイスして教えてくれた中の一曲だった。
 だが、ドイツ民謡だと説明されて後に聞いた曲は、かなりアレンジが加えられたものだった。子供向け、ということで、歌詞もメロディも原曲よりも可愛らしい曲に仕上がっていたのだと言う。

 「日本さんのところでは『山の音楽家』というのだそうです。動物さん達が楽器を演奏する可愛らしい歌でした」
 「動物が?」
 「はい。登場するのは、リス・ウサギ・小鳥・たぬきといった山に住む動物なんです」
 「それはまた。かなりメルヘンチックになったな」

 ドイツは呆れたように溜息をついた。
 日本は民謡でさえ独自風にアレンジしなければ気がすまないのか。
 動物たちがオーケストラを編成している様子が浮かび、思わず笑ってしまった。


作品名:本とビールと君の歌声 作家名:飛ぶ蛙