本とビールと君の歌声
*その後の蛇足*
外出から戻ったオーストリアは、庭の奥から聞こえてくる声に足をとめた。
すぐに、ドイツとリヒテンシュタインが歌っているのだと分かった。まずはリヒテンシュタインが歌い、続くようにしてドイツが歌っていることに気づいて首を傾げた。
おそらく何か民謡でも習っているのだろうが、
「はて、どこかで聴いた事があるような?」
初めて聴くことは間違いない、しかし自分はこの曲を知っているような気がする。
そんな不思議な旋律だった。
「土産は?」
「そんなものはありません」
リビングに入った途端に大きく開いて差し出されたプロイセンの手を、はパシリと叩き落とし、ソファへと腰を下ろした。
腕を組んで黙り込んだオーストリアに、さきほどの仕返しとばかりに、プロイセンはクッションを投げつけたが避けられた。
「むっずかしい顔しやがって。なんかあったのか?」
「さきほど、ドイツとリヒテンシュタインが歌っているのを聴いたのですが」
「ああん?リヒトなら分かるが、ヴェストが歌だあ?」
弟が歌を嗜むなんぞ聞いた事がないプロイセンは、疑わしそうにオーストリアを睨んだ。
そんな様子には構わずに、オーストリアはテーブルにあったティーポットに手を伸ばしが、とっくに冷めてしまっていた。
「ええ、歌っていましたよ。初めて聞くよく知っている曲を」
「なんだそりゃ」
「それを思い出そうと・・・そう言えば、リヒトはどうして我が家にいるんですか?」
「お前ん家じゃねえだろうが。あー、なんかスイスからお前に言伝があったとかでよ、家に来たんだよ。んで、暇だったら花壇に水撒いてくれって頼んだ」
「貴方という人は!客人を顎で使うとは何事ですかっ、このお馬鹿さん!」
「ああん!?馬鹿とはなんだ馬鹿とは!!」
「いいから、早くリヒトを連れてきてください!」
「よくねえよっ!ったく。んで、リヒトはどこにいんだ?」
「テラスですよ。そこに二人だけでいるようでしたが、」
「なに?!ヴェストの野郎、とうとう連れ込みやがったな!!」
プロイセンが、そんな奴に育てた覚えはない!だなんだと大騒ぎしながら、テラスに駆け込んでくるまで後3分。
ドイツの幸せな一日は怒号の応酬で幕を閉じたのだった。
「まったく、騒がしい人達ですね」
翌月。
ドイツ家に招かれた日本は、出し抜けにそれはそれは見事な混声合唱を披露された。
ただ、どうして『山の音楽家』なのかという疑問を、満足そうに互いを称えあうゲルマン人達には聞く事ができなかった。
作品名:本とビールと君の歌声 作家名:飛ぶ蛙