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メルヘンクエスト―序章

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 「其処の少年。」
 暗い路地から聞こえた声に、何故か振り返った。
 普通だったら聞えない様な小さな声。
 この賑やかさの中でよく聞こえたものだと思いながらも、ギンタは路地を覗き込んだ。
 「オレの事?」
 「そうじゃ、黄金の髪を持つ少年よ。」
 「オレはギンタって言うんだ、おっちゃんは?」
 「ワシは此処で商いをしておるただの薄汚れた爺じゃよ。」
 「ふ~ん・・何売ってんの?」
 露店というには粗末すぎる店、売り物である商品は直接地面に並べられていた。
 「人にはゴミ同然と呼ばれる物じゃよ・・・彼らはその<ゴミ同然>な物に込められた価値を見ようとはせん。」
 長くため息をついた翁に、ギンタは商品を一つ手に取る。
 「この本は何なんだ?」
 汚れてはいるが、豪華な装飾が施された重厚な本に、ギンタは興味深々だ。
 「・・気になるかね?」
 「だっておっちゃんがああ言うんだ、何か特別な本なんだろ?」
 「知りたいなら、持って行くと良い。」
 「え?売り物なんだろ。」
 「別に良いさ、この爺は久方ぶりにワシの話に耳を傾けたヌシを気に入ったのじゃよ。」
 皺だらけの、まるで骨のように細い腕を伸ばして本に触れた。
 ――ガチャン
 「そっか、人の好意は素直に受け取らなきゃな!ありがとなおっちゃん!」
 「礼など要らぬ。早速帰って読んでみると良いだろう。」
 「おう、それじゃーな!」
 貰った本を片手に大きく手を振るギンタを見送った後、翁が路地の影に消えた。
 一つの言葉を残して。
 「さあ、物語の始まりじゃ。」