温かな今
大切な誰かが居るから悲しみを乗り越えられる。
それは決して綺麗事の冗談なんかではなく、愛する人の温もりだけで生きていけるくらい、強い希望になる。
「クレスさん?」
真夜中、ミントは隣で眠っていた筈のクレスがベッドの上で動く気配によって目を覚ました。真摯な表情で天井を真っ直ぐ見詰めていたクレスに声を掛けるのは躊躇ったが、気が付いたら彼の名を呼んでいた。
「ん……? あ、ごめん。起しちゃったかな?」
「いえ……」
実際クレスが原因で起きてしまったのだが、ミントは小さく首を振った。それよりも、クレスの横顔を見た瞬間に胸が少し痛んでしまい、目が覚めてくれてよかったと思う。こんな表情をしているクレスを放ってはおけない。
「……どうなさったんですか?」
「何が?」
「すごく、真剣な顔をされているから……何かあったのかと思って」
いつもなら、気のせいだ、と、クレスは笑い飛ばせたかもしれない。だが今日はそうしなかった。息を呑んで、泣きだしそうなくらい脆い色を顔に滲ませた。
聞いてはいけなかったのだろうか。ミントが後悔で眉を下げたその時、クレスがミントに寄り添った。ミントの肩に目頭を擦りつけて、背を抱きしめる。
「夢を、見たんだ」
「……どんな?」
「わからない。起きた瞬間に忘れちゃったんだけど……」
クレスが大きく息を吐き出す。肌に直接降り掛かる吐息は温かいのに、クレスの手は僅かに震えていた。
「すごく悲しい夢だった。それだけは覚えてる。だから、起きた瞬間……辛くなった」
そうやって静かに告白するクレスを、ミントは抱きしめ返した。頷いて、クレスの苦しみを少しでも和らげたいと願った。自分は非力だが、こうしてクレスは自分を頼ってくれている。それは彼にとって、自分が心の拠り所になっている証だから。
「ミント」
顔を上げたクレスと目が合う。笑って見せようとしたが、頬は上手く動いてくれなかった。
「ありがとう」
何に対するありがとうなのか、聞き返す事は出来なかった。だが今のクレスにとっては本心からの言葉なのだと、いつの間にか浮かんでいたクレスの柔らかな表情で感じ取った。
そして、ミントは首筋の辺りに口付けをされながら、彼の温もりで本当に癒されているのは自分の方なのかもしれない、と、気付かされていた。