温かな今
彼女に嘘を吐いた。
本当は夢の内容を忘れてなんかいない。
口にしたら現実のものになってしまいそうで、怖かった。
夢の輪郭は確かにぼんやりとしている。
ただ、クレスはその夢に絶望した。
(ミントを、守れなくなる夢だった)
こんなに近くに居るのに、夢の中ではミントと離れなくてはならなくなった。
夢の中で悔やんでいた。どうして僕にはもっと力がないのか。あの戦いで成長出来ていたはずなのに、どうして一番守りたい彼女を守れなくなったんだ、と。
所詮、夢の中での出来事だ。夢から醒めれば隣に彼女が居てくれた。
だが現実だって、この先に何が起こるかわからない。
彼女に何が起こるか、あるいは、自分に何が起こるか。
考えれば考えるほど、夢で感じた絶望は現実に生きる胸の中にも広がっていった。
そうやって一人で考えていた時、彼女の声が聞こえてきた。
心配そうな声だった。そんなミントの声を聞いた瞬間、抑え込んでいた恐れが胸の奥から漏れだしてしまった。
情けない。こんな姿、見せ無くない。
でも。ミントは受け止めてくれる。現実はこんなにも温かい。
また今夜のように夢に震える日が来るかもしれない。
……そんな時、また彼女に寄り掛かってしまっても良いのだろうか。
目が合った瞬間にぎこちなくとも笑ってくれようとしたミントが、たまらなく愛しかった。