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Last Love Letter

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 何故歴史を学ぶのが好きなのかというと、前例を知るという意味が主では残念ながらなく、単純に興味があるからだ。周りの年上の彼らが生きてきた今までというものが如何なるものであったのか、彼らが「繰り返すもの」と揃いも揃って評価する歴史とは何なのか。

 それにしても、自分がかつて兄としていた人物は、その更に兄に、どれほどまでに厄介払いされていたのだろうか。先に読み終えた文献は、そう思わせる内容だった。
 前にもこんな気分になったことがあった。まだ小さい頃だ、彼宛てに手紙が来ており、彼の様子からどうも他人から来たものであるようには見えなかったから、家族からかと尋ねた。彼は兄だと答えた。そう言って自分に向ける彼の顔は笑っていたのに、手紙を読むと、彼の顔は途端に苦しそうに歪んだ。幼かった自分だが、彼がその兄に対し良い感情を持っていないのだということはわかった。そんな彼の様子を見た自分は、その兄がひどく憎く思えた。憎く、というよりは、それは、何とも名状しがたいのだが。
 彼はずっと一人だったのだ。そして、今でこそ孤立を貫いたその姿を、今は弟が受け継いでしまった。それは一体、彼にとってどんな気分なのだろうか。良い気分ではないのだろうが、同時に彼にしか知り得ない感情であるのだとも思う。
 彼は今も一人なのかもしれない。未だに多忙な時間に追われ、たまの休みを割いて何をするのかといえば、自分へ電話をしてくる。鬱陶しく思うから自分はそれを早めに切ってしまう。他に要するに厄介払いしている。これでは彼の兄と同じだ。
 知っていたが、これはとんだ兄不孝だ。
 そう気付いたからには、改善しようと思うのだ。

 それはただ単に、自分の後ろめたさがそろそろ嫌になってきただけであり、あくまで自分のためであり、彼のためではない。自分のためだ。

「だから、仕方ないから迎えに来たんだぞ」
「・・・は?」
 午前7時、だからどうした、カークランド邸。
 ベッドに連れて行く女の子もいないのかと呆れつつ(いるけど今日たまたまいないだけ?そんなことはどうでもいい)、寝惚けた顔で目を擦りながらこっちを見る兄を引っ張って無理矢理起こす。
「旅行しよう。さあ早く、3日後に会議があるんだ。時間は待ってはくれないからね」
「ち、ちょっと待て、アル」
「何だい? 会議じゃなくても、反対意見は認めないんだぞ」
「旅行って、どこへ行くかちゃんと決めたのか?」
 子供がどこへ誰と遊びに行くのかを尋ねる母親のような口ぶりである。(実際、育ての親だから何とも微妙な気持ちにはなるが、まあそれは置いといてだ)
「そうだなあ、どうせ泊まるんだから、世界一豪華なラブホでも探しに行こうか」
「なっ」
「嘘に決まってるだろ」
 何故頬を赤らめる。
「・・・でもそうだなあ、美味しいものが食べたいぞ。もちろん、君の奢りなんだぞ」
 まあダンキンにもそろそろ飽きたしね、というのは嘘だ。今更嘘なんてなんの意味があるだろう。そう思いつつも、アーサーの手を引っ張って歩き出そうとした。
 すると一旦強く手を引き戻されたのでそちらを見やると、満更でもなさそうな顔でアーサーが「し、仕方ねえな。でも、ちょっと待ってろ。こんなナリじゃ出掛けられねえ」と言うので、「さすが自称紳士、女の子と出掛けるならまだしも、野郎同士での旅行なのに身だしなみを気にするなんて気持ち悪いしケーワイなんだぞ」と返した。そして
「気持っ・・・お前、しかも、ケーワイってなんだよばかあ!」
 と返ってきたことは予想の範囲内だったから問題なしだ。ちなみに、ケーワイとは、菊曰く「(恐れ入りますが)空気を読めていらっしゃいませんよ」らしい。空気とは何か? さあ、そこまでは聞いていない。言ってみたかっただけである。
 久々に弟と出掛けるというのに、出会い頭に気持ち悪い呼ばわりは相当こたえたようで、すすり泣く声が聞こえたが、聞こえないふりをして「外で待ってるけどあんまり遅いと置いてっちゃうぞ」と言い残し、部屋を出た。

作品名:Last Love Letter 作家名:若井