Last Love Letter
そんな悶着があったのは1週間前だ。
結局、その後どうしたかというと、何とかなると思って行き先を決めていなかったことに加えて、3日という時間制限と、「美味しいものが食べたい」という自分の目的(本当は出まかせだったが、言ってしまった以上そうせざるを得なかった。だが目的は得てしてそういうものだ。今決めた)があったので、それらを一度に満たすには? として、結局日本へ行くことにした。
毎度のように菊の世話になることは、今回は違うと思った。なんとなくだ。たったそれだけの理由で、3日間宿を転々としながら、文字通り色んなものを食べた。とりあえず、何処へ行っても食べ物が美味しいというのは、素晴らしいことだと実感した。どこも支店が欲しかったくらいだが、菊にはもちろん、アーサーにも怒られそうだったので、断念した。
しかし、何を物として得たかといえば本当に食べ物くらいで、要はただの旅行だった。これがきっかけにどうなるわけでもなく(どうにかなる余地があるのか? さあ、どうだろう)、行って帰っただけ。誰かへの土産もない。土産話もない。
「でも俺は、なんだかんだ言って楽しかったんだぞ」
認めたくないが、正直な気持ちだ。
認めたくないので、電話だ。(一応言っておくとここでのポイントは、電話では顔が見えないことだ)
今回は自分からだった。旅の別れ際に「たまには電話してこい」と言われたのが頭から離れなかったので仕方なくだ。
だから電話したというのに。
「何で黙っているんだい、反応してくれないと」
『あ、ああ、お、俺こそ、楽しくなかったなんてことは・・・』
「なーんちゃって。別にいいよ。君が楽しくなくっても、俺が満足したからね。最後に食べたあの大トロは美味かったなあ」
腕時計をちらりと見ると、そろそろ時間だ。
「さよならアーサー。また今度」
今度がなかったら? なんて、例え話は嫌いだ。どうせ長い、それは実に文字通りに長い人生だ(『国』生の方が正しいのかもしれないが)、どうせいつか結末なんて来るに決まっているのだから、今考えても仕方ない。せめて素晴らしいものを願って、今日という日にも素晴らしいものを願うとしよう。
終話ボタンを押したついでに電源を切って、携帯電話をポケットに入れた。足を踏み出す前に、気休めだとは思いつつ、一人両手を合わせた。
どうか彼に孤独ではない何かを、心に平穏を、己たらしめる最高の結末を、どうか。アーメン。
作品名:Last Love Letter 作家名:若井