食満の髪がむかし実習で切られてたら萌える
留三郎は真剣に答えた訳ではなかったのだろうが、散々泣いていた下級生たちがきょとんと留三郎の方を向いて、そこに泣きやむ兆候が見えたものだからその先は口八丁手八丁。怖がらせないように細心の注意を払いながら髪を切った経緯、そして髪を切ったことをつゆ程も気にしていないことを面白おかしく話して聞かせた。それどころか以前より頭が軽くなり動きやすくなったので返って気にいっているとまで言ってしまったらしい。
しまった、と留三郎は内心思ったのだろうが、そこまで言ってようやく下級生たちは泣きやんでくれたらしい。
それから留三郎は定期的に髪を切るようになった。
中途半端な長さの髪は結いにくくてしょうがない。が、日々まとめにくい髪に苦戦しながらも留三郎は髪を切るのをやめない。
あれからどれほどの月日がたったと思っているのか。今髪を伸ばしたところで下級生も泣きださないだろうに。一度ついた嘘は貫き通すということなのか、そうだとしたらなんとも律儀な男だと思う。
そういう経緯があって、僕はたまに留三郎の髪を結うことがある。もっとも僕は留三郎より数段不器用なので、普段よりぼさぼさの留三郎の頭が出来上がるのだけど。
(食満と伊作)
作品名:食満の髪がむかし実習で切られてたら萌える 作家名:双谷二