蒼の五線譜 第三奏
「みんなー?どないしたーん?」
アントーニョの声も虚しく、アーサーら四人はその姿を眺めていた。
すると、恍惚とした雰囲気を破るように、元気な声が後方からかかる。
「おぉーい!レッドを置いていく戦隊なんて聞いたことないんだぞ!」
振り返れば、マシューの手を引きながら走ってくるアルフレッドだった。
なんだお前か、と言わんばかりの眼差しに、アルフレッドはポコポコと抗議する。
「一言も無しに仲間を置いていくなんて酷いなぁ~!ほら、マシューだってお疲れなんだぞ!」
「そ、それは君が全部の仕事に連れ回すからでしょ……」
マシューの疲労困憊な様子から見て、活動的なアルフレッドのことだ、校舎の端から端まで行くような往復を繰り返したに違いない。
そしてコロっと態度を変えると、アルフレッドは皆に言った。
「なぁなぁ、今度“目覚めの音(ね)”の曲を変えようと思うんだけど、なんかリクエストあるかい?」
すぐには思いつかず、皆が考えあぐねる中、アーサーは密かに耀の姿を確認する。
遠ざかっていく背中。
それは、とても幸福なものに見えた。
*
――寮内、フランシスの部屋
キャスター付きの椅子に逆向きに座って、物憂げに体を丸める人、ひとり。
部屋の主であるフランシスは、特にそれに取り合うこともなく、ゆったりと読書なんぞしていた。
不意に、床を蹴りキャスターが動き、フランシスの傍で止まった。
「……ねぇ、フランシスくん」
「うーん?」
便利な椅子を占領していたのはイヴァン。
本から目を離さないフランシスを気にせずに、そのまま語り掛ける。
「今日の帰りさ、アルフレッドくんがみんなに質問したじゃない?」
「あぁ、アレの曲変えるってやつ」
「そう。あの時のさ……アーサーくんの態度がどうも気になっちゃって」
「……っていうと?」
そこでページにしおりを挟んで閉じ、フランシスは顔を上げた。
イヴァンは考えるようなポーズをして、一言ふむー、と呟くと、視線を目の前の彼に戻した。
「誰か見てたでしょ。えぇと……耀くん、かな」
「そうかもなぁ。でもなんでそれをイヴァンが気にするのよ?」
「え?いやぁ、なんでって……」
「……ははぁ、さてはお前……好きだね?」
図星を突かれたイヴァンは、驚きで反射的に体を起こした。
ぱちぱちと瞬きをすると、小さくなって返事をする。
「……変かなぁ」
「なーに言ってんの、全然悪くないじゃん」
元気づけるようにイヴァンの肩を叩いてやり、そしてフランシスは自分の頬に指を当てながら楽しげに呟いた。
「そっかぁー……。耀ちゃん競争率高いなぁ。こりゃ骨が折れそう」
「? フランシスくん、もしかして……」
僅かに身を乗り出したイヴァンに対し、しばらく呆けたような顔をしていたフランシスだったが、その後に意地悪げに微笑んだ。
「そうなるねー♪あの子可愛いし、この前の会議の時なんて、意志の強さっていうの?こう、惚れ直しちゃったし」
「うぇえ……。凄いのがライバルに居るんだけど……」
「怖気づくのはまだ早いよ~。もしかしたら、意外な番狂わせがあるかもしれないんだから」
「……番狂わせ?」
「そ。もしかしたら、あのアーサーとくっつく可能性だって完全には否定出来ないって感じかな。嫌だけど」
改めてイヴァンに向き直り、フランシスはいつものテキトーな雰囲気から、引き締まった態度で言った。
「だとしても、ここは引き下がらないよ。今度ばかりは本気かもだからねぇ」
宣戦布告。
応えるように、イヴァンもまた微笑んだ。
「……うん、負けないよ」
to be continued...