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world of...-side red- #00

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―――今は捨てられ荒れ果てたた、郊外の小さな街。



昼も夜も静寂しかもたらさないこの場所に、今日に限って影がちらほら。

人、のようだ。

ひそひそと言葉を交わしあいながら、その動きはせわしない。
そしてその人々は、何かをこれまた忙しく運んでいる。



働きアリのようなそれを眼下に見下ろす、街の小高い丘の上。
此処にもやはり、今は主人亡き巨大な屋敷があった。
この建物は割りと丈夫らしく、埃などで汚れてはいたものの損傷は少なかった。

「――ふ、これで利権は我らのものですな」

歴史を感じさせる豪奢なホールで、二人の男が並んで窓の外を見下ろしていた。

「今夜中に、と頼んだはずだが……間に合うのか?」
「なに、心配には及びませんよ。ウチの奴らは有能ですからね」

街の中でせっせと働く人影を見て、その男は満足そうに目を細めた。
それを見て、もう一人の男も街を見下ろす。

「“ヤツら”が、現れないといいな」

祈るような言葉に、余裕の男は大仰に肩をすくめてみせた。

「そんなはずはないですよ!こんなド田舎の廃れた街になんて、目が行き届くわけないじゃないですか」
「……まぁ、そうかもな」



――さらに、城のようなその屋敷を、風が吹き抜ける崖で見つめる、金髪の青年が、ひとり。
崖下に広がる衰退しきった街を見回し、よし、と呟いた。

「全区域封鎖完了!みんな、後は好きにしていいよっ」

明るくものんびりとしたその声は、手にした無線機へと繋がっていった――


***


「りょーかいっ!」
「おい、声が聞こえるだろう」
「大丈夫だよ~、こんなとこ気付かれないって」
「まぁ……それもそうだが」

街の地下用水路。
そこに響くのは、地上からの足音と、水の流れる音、そして二人の青年の声だった。

「……ていうか、これからどうしよっか?」

無線に返事をした青年は、特徴的な癖毛をゆらしながら、背後を振り返った。

「うむ……とりあえずはこの騒がしい足音が一通り過ぎるのを待とう。皆が何処に居るのかもよく分からんからな」

もう一人の青年は、冷静に状況を分析して語る。

「ルート」
「なんだ、フェリシアーノ」
「……頑張ろうね」

フェリシアーノと呼ばれた青年は、はにかんで笑ってみせた。
それに答えるように、ルートことルートヴィッヒは、出来る限り微笑んだ。

「当然だ」


***


「分かった」

一言だけ返事をして、襟元の無線機のスイッチを切る。
そしてすぐに、外の様子を窺った。

「いよいよ、ですか?」

壁に寄りかかり目を閉じていた青年は、了解の返事にそう問う。
彼の髪や瞳は、闇の色そのものだ。
それに沿うように、声色も静かだった。

「あぁ。“好きにしろ”だとよ」

闇に溶ける青年の声に、少々ぶっきらぼうに答える。
碧の瞳は、街に蠢く影を見据えていた。

「なぁ、菊」
「はい」

視線を闇の方へと投げかけると、月明かりに照らされた菊がこちらを見ていた。

「あんま……無茶すんなよ」

すぐに視線を逸らした彼を見て、菊は嬉しそうに目を細めた。

「アーサーさん……。有難うございます。私なら大丈夫ですよ」

緊迫した状況にも関わらず、アーサーと菊の居る空間は、和やかなものだった。


***


「了解やー」
「んー……やっとかぁ?」
「せや!ごっつデカイ舞台やで!」

街の何処かの家屋、屋上。
短い癖毛がさらさらと風に揺れる。
その彼は武者震いを抑えられない様子で、わなわなと体を震わせた。

「ええなぁ~……この雰囲気!たまらんわぁ」
「くぁー、ねみぃ……」

彼のことなど露知らず、連れの青年は大きな欠伸をする。
どうやら、待機が長すぎて眠りこけていたらしい。
その青年に振り返って、何故か関西弁の青年――アントーニョが呆れたように言う。

「なんやロヴィーノ、緊張感あらへんなぁ~」
「おめーが言うことかよ、こんちくしょーが」

ロヴィーノは誰かに似た癖毛をぽよんと揺らし、その場から起き上がった。
うーんと伸びをする。
そんな彼に、アントーニョの手が伸びた。
するりとロヴィーノの頬に触れる。
風にさらされていた所為で、少し冷たくなっていた。

「せやけど、こないなトコで気負ってもしゃーないやん?」

真摯に見つめられて、ロヴィーノは頬を染めた。

「わっ、分かってる!」

それを見て、アントーニョはニカッと笑った。
まるで、真夜中の太陽のように明るい。

「今夜もがんばろーな、ロヴィ!」
「……おぅ」


***


「はーい、了解です」

プツリと無線機の電源を落とす。
ふと顔を上げれば、此処は建物の間の路地。
昼でも影になって、人など入って来なさそうな所だ。
下手をすれば、蠢く者たちに見つかりかねない状況で、ひとつ声が響く。

「リトー?指示きたー?」
「うん……って、何してるのポー」

緊迫した状況を一切無視して、フェリクスは黒猫と戯れていた。
翠の瞳は楽しげに細められている。
しかも随分懐かれているらしい。

間抜けなんだか肝が据わってるんだか――
はぁ、とトーリスは溜め息を漏らした。

「どしたん?」

そんなことは意にも介さず、きょとんとした表情でフェリクスは見上げてきた。

「……ううん。やっぱポーは凄いや」
「?」

堂々とした友に、くすっとトーリスは微笑んでみせる。
本人はよく分かっていないようだけど、彼はホントは凄い。
通りの近くを、バタバタと忙しく数人が通り過ぎていく。
黒猫をその腕に抱きながら、フェリクスがいつものように飄々と話しかけた。

「おっ、そろそろ行ってもいいんじゃね?」
「そうだね……。準備オッケーだよ」

二人とも、優しげな見た目とは裏腹に、好戦的な雰囲気を纏っていた。
トーリスを見、ふっと微笑むフェリクス。

「んじゃ、今夜も宜しく頼むしー」

それに対し、トーリスも同じように微笑み返した。

「あぁ、こちらこそ」

闇に沈んだ街に、ニャアと猫の鳴き声がひとつだけした。


***


「ん……分かった……」

街の入り口付近。
と言っても、標的らの移動手段の車がある南ではなく、その横の東側。
そこには、既にのびている敵と、返事をした青年、それと一人の男しか居なかった。
男はスーツの埃を払いながら、青年に向かって歩いてくる。

「ようやくお達しかぃ?」
「そうらしい……。“好きにしろ”って」

うへっ、と男は困ったような顔をした。

「相変わらず言うことえげつねぇでやんのな、あの眼鏡」
「……あんたが言えたことじゃない……と思うけど」
「あんだと!」
「……やるか」

この二人、会話をすればケンカばかりなのだ。
しかし、何故だかペアを解散したことは無い。
しばらく睨み合いを続けた後、男の方が先に折れた。

「~~ったく、しゃーねぇな」
「何がさ」
作品名:world of...-side red- #00 作家名:三ノ宮 倖