world of...-side red- #01
―――今、全てが始まろうとしている。
ローデリヒ、エリザベータ、ピーターは静かに無数のモニターを見つめた。
張り詰めた空気を破るように、外からドアが開けられる。
何事かと、ローデリヒは椅子を回転させた。
「あの~……」
「今晩は。始まりますか?」
顔を覗かせたのは、癖っ毛の小柄な少年と、短めの髪に眼鏡を掛けた誠実そうな青年。
「えぇ、丁度これからですよ」
「良かった……。ライヴィスが眠りこけていたもので」
「あぅぅ、すいません~」
「そうですか、ご苦労様です。エドァルド」
二人に向かって、ローデリヒは微笑みかけた。
そして再び、椅子をくるりと回転させ、モニターを見据える。
映し出されるは漆黒の仲間たち。
「来ますよ――」
world of...-side red-
#01「game to take-紅の月光-」
小声で囁かれる、取り引きの言葉。
そして零れる笑い。
群がる男たちはまだ知らない。
それが、全て崩壊しようとしていることを。
バガン、という音と共に、男たちの足元の床が――否、マンホールが吹き飛んだ。
男たちは驚いて動くを止めたが、底から現れたのは――
「ヴェ~……あれ?ココどこ?」
間の抜けた“くるん”だった。
拍子抜けした男たちは、なんだこいつとまじまじとソレを見た。
くるんというのは、勿論フェリシアーノのことだ。
彼は今、取り引きが行われている場所のド真中に居る。
フェリシアーノは、周りを見渡して、しまったとばかりに頭を掻いた。
「驚かせやがって……」
男たちの後ろから、場を取り仕切っているリーダーらしき人物が現れた。
ひときわガタイの良い大男である。
「てめぇ……何モンだ?」
「へ?俺のこと?」
「他に誰がいんだよ」
「え~……困ったなぁ……」
ポリポリと頭を掻きながら、いかにも困ったようにしていた。
だが。
僅かに俯いたフェリシアーノの口角は。
「ホント困ったなぁ……」
――楽しげにつり上がっていた。
「なんだ、答えられないような不都合でも……」
リーダーの男が言いかけたとき、眼下のフェリシアーノが顔を上げた。
その手には、二丁の拳銃が握られていた。
「獲物が近すぎてさぁ♪」
男がそれに気付いた時には、既に手遅れだった。
銃弾は男の両肩を的確に射抜き、驚愕と痛みと恐怖が荒波の如く押し寄せた。
「っがあぁあぁぁあ!!」
その場に倒れる男。
周りの男たちに、一気に動揺が広がる。
フェリシアーノはのそのそとマンホールから這い出してきた。
「よっし、要は崩れたよ~」
襟に付けられた無線機に、彼はそう告げた。
フェリシアーノに続いて、ルートヴィッヒがマンホールから出てくる。
「さて!お仕事開始だね、ルート」
「他が来るまで俺たちだけか……。これは骨が折れそうだ」
「そんなこと言って~、楽しそうじゃん」
「そうか?」
「うん、すごく!」
そうして、全ての幕は上がった。
***
「了解!近いからすぐ着くかんな!やられんじゃねーぞこんちくしょー!」
闇夜を駆けながら、フェリシアーノの声に応えるロヴィーノ。
後ろから来るアントーニョが、頬を緩ませている。
「てめー何笑ってんだよ!」
「おー、すまんすまん!相変わらずロヴィはええ子やな~と思ってな!」
「~~ッ!ほざけ!!」
そこに、騒ぎを聞きつけたヤツらが現れ始めた。
瞬く間に道は塞がれ、二人は取り囲まれる。
「おーおー、皆さんお揃いで~」
「アホ!何囲まれてんだよ!」
「そらロヴィも一緒やないかー?とりあえず、突破するしかあらへんで」
懐から拳銃を取り出すアントーニョ。
ロヴィーノは、あくまでマイペースな彼にムシャクシャしながらも、脇のホルスターから二丁の拳銃を取り出す。
「あーくそっ!!行くぞアントンの馬鹿!」
「馬鹿は余計やっ!行っくでー!」
二人は揃って前に踏み出した――。
***
左耳から聞こえたフェリシアーノの声に、フェリクスはさも楽しげに笑みを漏らした。
「にしし、なんかもー先に始めちゃったっぽいよー?」
一歩前を歩くトーリスが、その声に振り返る。
「もう……遊びじゃないんだぞ」
「んなの分かってるしー」
しかしトーリスの声に非難の色は含まれておらず、むしろ日常の何気ない会話のようですらあった。
胸に抱いた黒猫を弄りながら、フェリクスはつまらなそうに呟く。
「こっちってあんま居ないじゃん?だから、早くあっち行って撃ちたいし」
「腕が鈍るって?」
「リトの記録越すんよ」
「あはは、ホントそういうの好きだよね、ポーは」
そう、二人の居る東側は比較的警備が手薄で、ちらほらと居る男たちをかわしていけば、誰と会うこともなくフェリシアーノたちの所へ辿りつく事が出来るのだ。
そして、フェリクスはトーリスと撃ち取った敵の数を競っていて(フェリクスが好き勝手にやっているのだが)、彼は相棒の記録を中々破れないんだとか。
フェリクスが黒猫に軽く猫パンチを食らっている頃、にわかに辺りが騒がしくなった。
腕をサッと伸ばして、後から来る彼をトーリスが制止する。
「……待って」
「うへっ、なんよ?リト」
「向こう見てみなよ」
「おろ、もう着いたん」
壁からそっとその向こうを窺うと、そこには敵対組織の男たちがわんさか。
そして騒ぎの正体は、輪の中心。
「ヴェー!いつまで沸いてくんのこの人たちー!?」
「くっ……。予想より遥かに多いな」
フェリシアーノとルートヴィッヒだ。
だが、台詞とは裏腹に二人には余裕さえ見える。
「さすがだね……行く?」
ニッと笑ったトーリスに、フェリクスは挑戦的な笑みで応えた。
「もちよ。」
フェリクスが黒猫を下ろすと、二人はほぼ同時に銃を取り出した。
二丁の対になるものを、互いに一丁ずつ分け合った、絆の証。
次に踏み出すのも、同時だった。
***
「分かりました、でもまず――」
無線機からのフェリシアーノの声に返答するや否や、ティノとベールヴァルトは一斉に別方向に飛び退き、脇の小道へ体を躍らせた。
直後、二人の居た場所に数発の弾丸が撃ち込まれる。
『大丈夫でしたか?』
「ん、平気ばい……おめは?」
『勿論大丈夫ですよ』
ベールヴァルトは懐から拳銃を取り出しつつ、向かいの小路に居るティノを見る。
丁度、ティノも彼の様子を窺ったようで、二人は同時に相手を捉えた。
先程銃撃を仕掛けたであろう数人の足音と話し声が聞こえる。
「……5人、いんや……6人だべな」
『此処の守りも薄いですね……。僕ら舐められてます?』
「怒っちょるけ?ティノ」
『うーん……。まぁ、少し、ですよ』
襟元の無線機から、カチャリと金属音が聞こえる。
視線の先のティノは、拳銃を出していたからたぶんそれだろう。
『やっぱり馴染みませんねー、コレ』
作品名:world of...-side red- #01 作家名:三ノ宮 倖