world of...-side red- #02
バッシュはそのままガトリングの上で立ち上がると、二人を交互に見て状況を告げた。
「裏に潜んでいた輩は残らず始末した……よって此処の片付けは仕舞いだ。我が輩たちが任されたのはこのフロアのみ。後は引くなり先に進むなり自由だそうだ」
「ふぅん……。じゃあ、上は任せちゃおうかな。俺も疲れた感じだし」
かくして、三人は外へと出る為に下の階へ降り、菊と紅華の二人と合流することになる。
*
――三階
「おぅりゃ!……もー!終わんないんだぜーコレー!」
容赦なく敵をばっさばさと切り伏せながら、香と同じような心境になっていた。
唯一つ、違う点といえば。
「おっしゃあ!もっと掛かって来いよっ!」
同じフロアにギルベルトが居ることだろう。
彼は現れるなりでたらめに銃をぶっ放し、次々と男らを撃ち取っていったのであった。
しかし、ここでも同じように尽きることなく人が湧いて来るので、いい加減この状況に埒をあけなければと二人共に思っていた。
「よぉよぉ任坊!まだ元気かぁ!?」
「大丈夫ーっす!でも飽きましたよーっと!」
何度目か、ギルベルトが銃に弾を込め、ヨンスが青竜刀を構えなおした時。
ビシリ、と何処からか亀裂の入る音がした。
ヨンスは辺りを見回すが、周囲にはじりじりと間合いを詰めてくる男たちの姿しかない。
なおもキョロキョロとしていると、ギルベルトが声をあげた。
「! 任坊!!」
「なんスか!」
「上だ!!」
「へっ?」
緊迫した声音に、その場に居た全員が頭上を見上げた。
そしてそれと時を同じくして、鼓膜を裂きかねないほどの爆発音がし、天井がいとも容易く崩れ落ちた。
「え……えぇぇぇぇえぇぇえ!?」
爆発音は耳を塞ぐことで何とか耐えたが、こればかりは耐えるとかいう問題ではない。
降り注ぐコンクリートの雨を、必死に避ける二人は――
その中に、一人の男と耀の姿を確認した。
落下しながら男が銃を構え、耀が瓦解した床を足場に、大きく三節棍を振りかぶり跳躍する。
「――兄貴っ!!」
弾丸は耀の前髪を掠り、何処かへと消え去った。
その間も人工の雨は止むことを知らず、砂埃をあげて視界を奪った。
「ちっ……!耀のヤツ無事なのかぁ?」
軽く咳き込みながらギルベルトが耀の姿を探すと、狙ったかのように風が吹き込み、綺麗に視界が晴れた。
そこには、うず高く積み上がったコンクリートの瓦礫の上で、男の上に馬乗りになり、その首元を三節棍で押さえつけている耀の姿があった。
「ぐっ……!」
「まさか、かく乱用に床に爆薬があるなんてな……。さすがに計算外だったぜ」
耀は三節棍の端に手を伸ばすと、金具を外し、そこから細いナイフを取り出した。
逆手に持ち替え、眼下の男を静かに見下ろす。
「褒美だ。アンタとはなかなか良い戦いが出来たから、楽にあの世へ送ってやるよ――」
「――!!」
そして、ナイフを手にした右手を、天高く掲げた。
表情を凶悪なものへと変えて。
「――あばよォ!!」
水の入った袋が、針で突かれ弾けるように。
ナイフで心臓を貫かれた男は、勢いよく鮮血を噴き出させ、事切れた。
耀はやれやれといった様子で立ち上がると、こちらを見る視線に気付き、それに顔を向ける。
「おぉ~なんだ、久し振りだなァお前ら」
雰囲気と口調の違いで、二人は彼が誰であるかを理解した。
彼が言っていた通り、こうして会うのは久しいのである。
「あー……。あぁ!お前ヤオか!久し振りだな~、元気してたかよ?」
「当ったり前だろ!ユエより先にくたばるわけにはいかねーっつーの」
「相変わらず忠義モンだなぁおめぇは」
ギルベルトの言葉に答えつつ、ヤオは瓦礫の山を駆け下りた。
比較的近くにヨンスが居て、彼に笑いかける。
「よっ、久し振りだな……兄弟」
対するヨンスもニカッと笑って答えた。
「おぅ!久し振り!元気そうで何よりなんだぜ」
――全ての行程が終わり、血の臭いが充満する城を、三人は談笑しながら後にした。
***
城の外では、既に他のメンバーが三人を待っていたのであった。
紅華が真っ先に三人に気付き、嬉しそうに声をかける。
「あっ、お帰りなさーい!」
振り向いた皆が三人の姿を四人して、ぞろぞろとその周りに集まり、それぞれに労いの言葉などを交わしていた。
中でも、やはりヤオには否応なく注目が集まり、バッシュとマリーはこの時初めて彼の事を知ったので、随分と驚いている様子だった。
「ヤオくん」
「ん?なんだよイヴァン」
「それ……」
イヴァンが指差したのは、ヤオの頬の傷だった。
それを摩りながら、彼を言いたい事が分かったヤオは返答する。
「弾が一発掠ったんだよ。心配すんな、“ユエは怪我してねぇ”からよ」
「そっか、よかった~……って君にもしもの事があっても困るんだけどね?」
「だろうなァ」
ハハハ、と笑ったヤオは、突然ぐらりとバランスを崩した。
すかさずイヴァンが支えるが、周囲はどよめいた。
「大丈夫?」
「あ、あぁ……。やっぱ駄目だな……こればっかりには逆らえねェや……」
「本当に大丈夫なのですか?何処かお体を……」
「平気だよ……ただ……ちょっと、眠るだ……け……さ」
心配するマリーにそう言い終わると、ヤオは意識を投げ出した。
すぐにすやすやと寝息が立てられる。
そんな彼を軽々と持ち上げ、イヴァンは皆に笑ってみせた。
「ほら、ヤオくんも疲れて寝ちゃったし、帰ろうよ」
そうだな、と返事をして、皆フランシスの運転する車に乗り込み、一路家を目指して走り去って行ったのであった。
狭い車内で寿司詰め状態なのに加えて、またしても無茶なコーナリングをするものだから、運転手に大ブーイングが飛んだのは言うまでもない。
絆に、乾杯!
to be continued...
作品名:world of...-side red- #02 作家名:三ノ宮 倖