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キスより上

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「……っ」
 ばたん、と、別に力任せにというわけでもなかったけれど、ダークがぼくの腕を掴んで、体を壁に押し付けてきた。さっきも言ったとおり力任せではなかったので別に体は痛くない、ただいきなりこんなことをされるとは思っていなかったので、結構驚いている。
 慌ててダークの赤い瞳を見る。相変わらずいつもダークは無表情なので、その目から今の彼の感情を読み取ることは非常に難しい。けれどそれはぼく以外の人からすればの話であって、彼の僅かな表情の変化から感情を読み取ることは、今のぼくにとってはそんなに難しいことじゃない。
 実際に、今のダークは僅かに赤い目が泳いでいるので、恐らく何かに迷っているか何かに躊躇っている。大体そんなところだろう。
 どうしてぼくが壁に押し付けられているのかは、流石にダークに聞かないことにはわからないけれど。
「どうしたのさ。そんないきなり」
 掴まれていないほうの手をダークの頬に置いて、どうしてこんなことをしたのか聞いてみるものの、ダークはぼくから僅かに視線を逸らしただけで、何も言ってこなかった。
「ダーク? ……わっ!」
 ダークがぼくの肩に顔を埋める。……それだけならよかったけど、いきなりぼくの長い耳を軽くなめられて、そのまま甘噛みしてきた。
 耳を甘噛みされるだけでもう十分くすぐったいのに、その上ダークの吐息と、吐息と一緒に漏れる、普通だったら絶対に聞こえないほど小さい声も一緒に耳にかかって、凄くくすぐったいし、体がびくんと震えた。
「く、くすぐった……ダーク、やめてよ」
 慌ててダークの体を片手で押し返したり、掴まれている手を振りほどこうとしてみて、どうにかダークから離れようとするけれど、耳に息を吹きかけられて甘噛みされているような状態じゃ上手く力が入れられないので、押し返すことも振りほどくこともできない。
「ダークってば……」
「嫌なのか」
 ダークがぼくの耳から口を離して、耳元でそう囁く。吐息と声が耳にかかって、また肩が僅かに震えた。
 同時にぼくの腕を掴む力が弱まったので、慌てて腕を振りほどいて、両腕でダークの肩を掴んで体を離す。ダークの顔を見ると僅かに眉が下がっていた。普通の人なら少し困っている、で済むような表情だけれど、ダークは表情を変えることが殆どないので、少し眉が下がっているだけでも、ダークはかなり困っているということになる。
 ただいきなり耳を甘噛みされて慌ててそれを止めさせたら、困られたといっても、困りたいのはこっちのほうだ。次に顔を耳に近づけられてもすぐに押し返すことが出来るようにちょっとだけ身構えた。
「お前は嫌か」
「嫌もなにも、いきなり人にこんなことするものじゃない。……そもそもどこでこんなこと覚えたのさ」
「本で読んだ。好きな人には、こうするとあったから。間違ってるのか」
「間違ってるっていうより……ええと」
 好きな人にするという点ではあながち間違ってもいないけれど、ダークは使いどころをかなり間違えている。自分達はまだそういうことをするような関係には至っていないし、ぼく達の部屋だからよかったけれど、皆の前だったらどうやっても言い訳ができないだろう。その上言い訳を考えなきゃいけないのはぼく一人の役目なので物凄く割に合わない。
 それに本で読んだと言っていたけれど、どんな本を読んでいたのだろう。小説なんかの本を読んでも魔物のダークじゃ上手く想像力を働かせることが出来ないので、ストーリーは全然理解できず、面白くないらしい。
 それでも余程暇なのか、最近じゃ文字を辿ることに楽しさを見出して本を読むようになったので、文字を辿れることが出来れば何でもいいぶん、ぼくじゃ絶対読まないような難しい本から図書棟のどこの棚から持ってきたんだと聞きたくなるほど変な本まで読むようになった。小説のストーリーは分からなくても、本から色んな知識を得てくることもたまにある。
 だから、そういう本をいつのまにか読んでそういう知識を得ていたとしても、何にもおかしくないのだ。こっちとしては非常にいい迷惑だけど。
「おかしいのか?」
「別に、好きな人にするってのじゃおかしくないけどさ……でもそうされるのは、ぼくは嫌なんだけどな」
「そうか、すまない」
 ダークに頭を下げられた。一応これはダークなりに愛情表現の仕方を模索した上でのものだとは分かっているんだけれど、いきなり耳を甘噛みされても驚くだけだ。もっとこう、いい雰囲気になったらちょっとは許容できるのかもしれないけれど。
「別に好きな人にすることだったらさ、キスとか抱き締めるのでいいだろ。ダークだってさ、抱き締められるのが好きだったじゃないか。それなのにどうしてこんなこと」
「足りないんだ」
「へ?」
「おれは確かにお前が好きなのに、それを伝える方法がない。キスやお前を抱き締めることで、お前に好きだって気持ちが伝わることは知ってる。でも、あんなのじゃ足りない。あれだけじゃ、何回やったってお前に気持ちを全部伝えきることはできない」
 ぼくの顔にダークの息がかかるほどの距離で、そんなことを言われて照れないわけがない。ただぼくが照れても、ダークにとってそれは当たり前のことだ。
 最近じゃ人に絶対に言ってはいけないこと以外にも、ダークにしてはなんでもないことだけれど、口にしてしまえばぼくが照れてしまったり怒ってしまったりする、あまり気安く言うべきじゃないこともあるというのを学び始めてくれたので、こういうことは減りつつあるし、そろそろぼくも慣れつつあるけれど流石に今回ばかりは駄目だった。
「教えてくれ。これ以外にも、お前に好きって気持ちを伝える方法があるなら、それを知りたい」
「……別に伝えて貰えなくたって、ダークにどれだけ好かれてるかってぐらい、わかってるよ」
「それはわかってる。けど伝えたい。……教えてくれ、キス以上のことがあるなら」
 キス以上のことというと、勿論思いつくのはひとつしかない。確かに自分達は両思いの関係ではあるし、初めてキスをした日だって結構前に遡る。だから互いが互いを好きである以上、そういうことをいつかするというのは別に何にもおかしくないことではあるのだけれど、正直心の準備が出来ていない。
 そういうことはまだぼくも、勿論ダークも未経験だし、ダークに至っては今までの発言の通り、そういうことがあるということすら知らない状態だ。何故ならぼくが教えていないからだ。そんなこと教える気にもなれないけれど。
「あることはある……けど。今はいいだろ」
「よくない。おれはこれじゃ足りないから、お前に聞いているんだ」
 腕をまたぎゅっと強く掴まれた。少し痛い。そんなに切羽詰るほどダークはぼくが好きだということがよくわかる。けど、教えたくないものは教えたくない。
「おれには教えられないのか?」
 ダークの問いに、こくりと頷く。
「どうして」
「……多分ぼくらには、まだ早いから」
「早くなんかない。少なくともおれにとっては全然早くなんかない。……お前は、おれが嫌いなのか?」
「そんなわけないだろ」
「じゃあ、教えてくれ」
作品名:キスより上 作家名:高条時雨