キスより上
そのままダークがぼくの肩に顔を埋める。また耳を甘噛みされるんじゃないかと一瞬身構えたけれど、そんなことはなくて、本当にただぼくの肩に顔を埋めてきただけだった。
正直最初は煙に巻いて逃げるつもりだったのだけれど、ダークはこんなにも必死だ。煙に巻けるかどうかも分からないし、そしてなによりそうするのは心が痛む。ダークの背中に、ゆっくりと腕を回して、
「キス以上のことは確かにある。でもぼくはしたくない。だから、今は教えられない」
「おれはしたい」
「ダークはどんなものか知らないから、そんなことが言えるんだ」
「知らないからおれは知りたい。教えてくれ」
「……無理だよ」
わかってくれという願いと一緒に、腕にぎゅっと力を込めた。ダークもぼくの背中に腕を回してきて、抱き締めあう形になる。
ダークは以前、キスよりも抱き締めたり抱き締められるほうが好きだと言っていた。ぼくはキスの方がいいと思うけれど、そっちだって嫌いじゃない。そして、ダークはこうやって抱き締めることで満足していると思っていた。
けど実際はそうじゃなかった。ぼくはダークと抱き合うと凄く満たされた気持ちになれる。だから、それだけで満足だった。でもダークはそれだけじゃ不満で、それ以上を求めてる。
ダークのことは嫌いじゃないから、それ以上をするような日だっていつか必ず来るだろう。でもその日は多分、今じゃない。
「諦める、から」
「?」
「今は諦めるから、でも、いつか必ず教えてくれ」
ぼくの首筋に頬をすり寄せ、ダークが言う。
「わかった。いつか、ね」
ダークがぼくの肩から顔を離す。そのままついさっき離したはずの顔をもう一度ぼくに近づけて、ダークの唇をぼくの唇にそっとよせる。
舌を絡めたりはしてこないけれど、それでも長くて、雰囲気のせいもあってか妙に甘ったるいキスだった。少し息苦しくなる頃にやっと唇を離された。唇にその甘ったるい感覚が焼け付いて中々なくならない。
ダークはぼくの目を、赤い目でじいっと見つめて、
「絶対にだからな」
「……わかってるってば」