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素直じゃない

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三郎が委員会に行ってしまい、僕は一人迷っていた。誰かと出かけようか、それとも先輩たちのように自主練でもすべきか。
 そこにやって来たのが、勘右衛門だった。

「あ、雷蔵だ」
 彼は長屋の廊下に腰かける僕を見下ろして、あの人好きのする笑顔を浮かべる。
「勘右衛門、どうしたのさ。学級委員は今委員会中だろ?」
「ああうん、さっき終わったんだ」
 よいしょ、と当然のように僕の隣に腰を下ろした。彼はい組の生徒だけど、僕や八左ヱ門のようなろ組の連中とも仲が良い。・・・一部を除いて。
「そうか、じゃあ三郎も帰ってくるかな」
 訊ねると、勘右衛門は珍しく曖昧な微笑を見せた。
「あー、しばらく戻らないんじゃないかな、あれは」
「どういうこと?」
 まさかまた僕の顔でくのいち教室にでも行ってるんじゃないだろうか、と思ってつい渋い顔で聞き返す。
 すると勘右衛門は慌てて、
「や、多分はっちゃんか誰かのとこだと思うんだ」
「え、何かあったの?」
 僕がさらに訊くと、曖昧な半笑いのまま目を逸らされた。
「いや・・・ちょっとね」
「・・・ふぅん?」
 それで何となくわかった気がして、僕はそれ以上の追及をやめた。すごく気になるけど、まあ後で三郎から直接聞けばいいし。

 それからしばらく、僕と勘右衛門はとりとめもない話をした。兵助は豆腐の声が聞こえるらしいとか、八左ヱ門はキャラがいまいち立ってないとか。
 やがてふと会話が途切れたとき、勘右衛門がそれまでとは全然関係ない話を切り出した。
「なぁ、雷蔵。さぶ・・・鉢屋のことなんだけど」
 勘右衛門がわざわざ言い直したのが面白くて、つい微笑してしまう。
「うん、何?」
「あいつ、おれのこと好きなんじゃないかなぁ」
「うん・・・って、ええっ?!」
 ぎょっとした。あんまり自然に言うものだから一拍遅れて。
「勘右衛門、きっ気づいてたんだ!?」
「え、そっち!? おれそんなに鈍くないよ」
 いかに意外かを体全体で表現したら、勘右衛門の顔が少し赤くなった。ふくれているらしい。
「ははっ、確かに三郎のあの態度じゃバレバレだよね」
 今朝も委員会に行くとき妙にそわそわしてたし、と思い出し笑いが漏れた。
「そうだよ、わかりやすすぎる。・・・ん、てことはやっぱりそうなんだ?」
作品名:素直じゃない 作家名:たつき紗斗