素直じゃない
さすがに耐えきれなくなったみたいで、勘右衛門がべったりくっついている兵助を引き剥がす。べり、という音でもしそうな程だ。
「いきなり何するの・・・」
「勘ちゃんが可愛いこと言うから」
「な・・・・・・っ」
勘右衛門によると、兵助はいつも真顔でこんなことを言うから困る、らしい。まあでも顔は真っ赤だけど嬉しそうだよね、いつも。
「勘ちゃん、続きは部屋で聞かせて」
「え、部屋でって・・・ぅひゃああぁ?!」
勘右衛門が奇声を上げた。兵助だけは相変わらず真顔で、大して背丈も変わらない恋人をひょいと抱きかかえる。
僕? 僕は見守るしかできないよ、もちろん。
「へーすけ、ちょ、そこ触らないでって」
「じゃあ雷蔵、またな」
「うん。ごゆっくり」
「らいぞおぉ!!」
涙目になって連れ去られてゆく勘右衛門を見送っているとちょっと可哀想な気がしたけど、でもやっぱり嬉しそうだったからいいや。
「・・・・・・さて」
兵助が現れるより前から潜んでいたらしい気配を、そろそろ取り上げようか。
「ねぇ三郎」
「・・・な、何だ雷蔵」
こそこそと庭の茂みから出てきたのは、つい先ほどまで話題に上っていた三郎ご本人。何故か八左ヱ門の変装をしてはいるけど、すぐ判る。
「勘右衛門と仲良くしたいなら、自己紹介くらいはしたらどうだい」
「・・・・・・ふん・・・」
―――そんなこと、言われなくてもわかってる。
きっとそう思ってるんだろうね、君は。