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あさめしのり
あさめしのり
novelistID. 4367
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最後の恋人

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 胸が痛い。今こうして、腕のなかにアメリカがいてくれることが、どんなに得難いことか今ならわかる。たとえ同情でも気まぐれでもかまわない。俺と一緒に紅茶を飲んで、何でもない話をして、抱き合って眠ってくれる。それがたとえ今日が終わるまでの間でも、俺にとっては千金に値するのだ。
「大丈夫かい。今日は俺が一緒にいてあげるよ」
 アメリカはそう言ってくれた。ぼんやりと、こいつが俺のものになってくれればいいのにと思った不埒な俺の想像などまるで及ばない。低俗で愚かな俺に比べて、アメリカは昔のままのきれいなものを持ち続けていた。そのきれいさこそが、俺をひきつけてやまなかったアメリカのよいところだった。
 俺はそっと彼のスーツに手をかけた。ボタンをひとつずつ外す手がふるえる。十代の童貞じゃあるまいし。そう思っても、手の震えはなかなか止まらない。仕事の帰りに寄ったのだと言っていたから、スーツが皺になったらまずいだろう。きちんとかけておかなければ、そう思うのに、俺の手は言うことをきいてくれなかった。
 喧嘩するときだってもう少し紳士的だろうという勢いで、俺はアメリカを押し倒した。さすがにこれにはアメリカも驚いたようでうわっという実に色気のない声をあげたが、俺はアメリカのシャツをひん剥くことに夢中になっていて聞こえなかった。正確に言うと、聞こえていなかったわけではなくて、単に耳から入ってきた情報を脳が処理しなかっただけの話だが。
 シャツのボタンを外して、インナーに手を突っ込む。あたたかくすべらかな胸に手指を這わせると、アメリカは肩を震わせた。
「あっ、」
 指先が突起に触る。白いインナー越しに見える、乳首を摘むとアメリカはぎゅっと目をつむった。
「気持ちいいのか」
 アメリカは目をつむり、唇を噛んだまま、こくんとひとつ頷いた。あまりに素直な反応に、俺は感動しさえした。そういえばアメリカはもともと素直な子どもだったのだ。独立のいざこざから、俺はアメリカに対して距離を置くようになったしアメリカも俺につっけんどんな態度をとるようになったが、この子の本質は昔と何も変わってはいないのだ。
「アメリカ、手、ばんざいしてみろ」
 子どもにさせるように、アメリカのインナーを脱がせてやる。ふつうなら色気もクソもない。だが、俺はそれにこそ興奮した。アメリカと初めてセックスしたとき、彼はまだいとけない子どもだった。俺の中でアメリカとのセックスは、こういった子どもめいた仕草で興奮を得るようにできているのだ。
 それに対してアメリカも素直に、ん、と腕を上げて脱がされるがままになった。幼児返りでもしているみたいだ。だが、昔に帰ったのはアメリカだけじゃない。俺もまた、幼い頃のアメリカにするようにそうしていたのだから、ふたりして時間を巻き戻しているようだった。
「相変わらずきれいな肌してんな」
 筋肉で隆起している胸を愛撫すると、アメリカはかわいらしくあんと鳴いた。すべすべの肌に大きめの乳輪は、昔と変わらない。筋肉はだいぶついて男らしい体つきになったようだが、もちもちした肌の感触は変わらなかった。胸筋を揉むように愛撫しながら口でもう片方の乳首をくわえると、薄い色の乳首が俺に吸われてかわいらしく尖った。口の中で転がすと、硬くなった先端がわかる。舌でつついて舐め回すと、や、ああ、と甘ったるい声が寝室を満たした。
 彼は、今まで俺が飼ったどの恋人たちよりもかわいく鳴いてくれた。
「…ん、はっ…あ、……」
 寝室にアメリカの鼻にかかった声が響く。
 かわいいアメリカの声は、初めてセックスしたときの声とはだいぶ違っていたが、男らしい今の声で、こらえるけれど結局こらえきれずに漏らす喘ぎ声は、俺の腰を直撃した。少年特有の女か男か判別のつかないかわいい声もよかったが、成熟した男の声でイギリスと呼ばれるのはたとえようもなくよかった。そんなふうにかわいい声で鳴いてくれるなら、俺はなんだってできてしまうだろう。
 アメリカの胸から口を離すのが惜しくて、俺は手探りでベルトのバックルを外した。バックルさえ外れてしまえばこっちのものだ。ボタンを外し、ジッパーをおろす。それから、おざなりにスラックスを脱がせたところで、派手な色と柄のトランクスが覗いた。ゴムの部分に手をかけて引っ張ると、アメリカも半ばまで脱がされたスラックスに気がついて、足にまといつく布を振り払って落とした。
 派手なトランクスから伸びた白い太股がなまめかしい。筋肉のしっかりついた男のものなのに、陽に焼けていないそこはひどく無防備だった。他人も、太陽さえもめったに拝むことのないそこを、俺だけが許されていると思った。胸を舌でいじるたびに震える内股にふれることができるのは俺だけなのだ。
「…イギリス、触ってくれよ」
 どうやら凝視し過ぎたらしい。アメリカは、ちいさく言って、俺の手を下着越しの自分の性器に導いた。掌で触れれば熱く硬くなっているのがわかった。
 アメリカも、ちゃんと興奮しているのだ。
 その事実に、俺はたちまち嬉しくなった。俺の独りよがりじゃない。自分のエゴと自己満足のせいでアメリカから独立された俺は、未だにそのことをトラウマに思っている。俺のなかに根強く残る、心の傷だ。だから、自分のエゴで独立された俺は、ついアメリカの顔色を窺ってしまう。みっともないと笑いたくば笑え。かつての俺なら、俺についてこない奴なんて必要ないと笑っただろう。だが、今の俺は知っている。一人きりで生きていくのでなければ、独りよがりの自己完結は絶対に俺自身も周囲も幸せにしないということを。だから、独りよがりになることを恐れるのは、決して悪い事じゃない。
 トランクスのなかに手を突っ込んで、彼のペニスを握ると、アメリカは俺に抱きついた。
「アメリカ、」
「……君さ、いい加減諦めて俺にしときなよ」

 何が「いい加減」で何が「諦めて」なのか、俺にはよくわからなかったが、アメリカが俺を許したということだけはわかった。俺を受け入れることを、アメリカは認めてくれたのだ。
 そのあとどうなったかということは、もう言うまでもないだろう。
 俺はアメリカのその一言で完全に参ってしまったり舞い上がってしまったりで大忙しだったわけだ。数世紀ぶりに抱いたアメリカの体は、以前とはまるで違っていて、それでもやっぱり俺は興奮した。
 目が覚めて、レモンイエローの彼女の囀りが聞こえないことに、俺の胸はまだ痛む。庭の片隅にふたりで埋めてやった彼女のことを、俺はまだふっきれてはいない。たぶん、しばらくの間彼女の不在につけ、あの美しかった声や姿を思い出すのだろう。
だが、俺は暗い部屋で熱帯魚の水槽の前に座り込むことはしなかった。いつもひとりで眠るベッドに、今はアメリカがうとうとして金色の睫毛を震わせているからだ。彼の髪を梳くと、すでに汗は乾いてさらさらとした感触に戻っていた。
なあ、アメリカ。
「あれ、一日だけか?」
 俺は短く聞いた。
 一緒にいてあげるよという、一見すると子どもじみているくせに子どもの慰めとはまるで違った響きをもつ、あの言葉の有効期限を、俺は知りたかった。
作品名:最後の恋人 作家名:あさめしのり