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ブギーマンはうたえない〈2〉

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塔の近くまで来て磁気が強くなった。だがそれは視界の磁気の波が強くなるだけであり、別に他では支障はない。何か人体などに影響を及ぼすものではなさそうだった。
ぐるりと回ってみたが入り口らしきものが見当たらない。仕方ないので中に入ることは一旦諦め、サーチの種類を赤外線フィルターに切り替えて塔の内部を探ることにした。


(? 中はこれだけか?)


人がいるのかと思ったが人がいれるような場所はなく、ただ広く空いた空洞に無数に大小それぞれのコードが蠢いている。そしてそのコードの中を先ほど感じていた磁気の波が通っているようだった。
とても発電所とは思えない。しかし確かに何かはここにあると確信し、津軽は視野を広めて塔全体を見回した。
だが塔の上部までをも透視してみるがコードがぐるぐるとあるだけでその中心となるものがない。ではそのコードはどこからどこへ伸びているのかと追っているところでザザッとノイズが入り視界が遮断されてしまった。


「っ」


前頭部に痛みを感じて津軽はこめかみを押さえながら塔の壁に手をつく。自然力むように手に力が入ってしまい、元々常人ではない津軽の力に押されて壁の一部がみしりと呻いた。


「…ハァ、」


しばし止まって痛みが落ち着いたところで、またサーチを起動させて塔の内部に視線を巡らせる。上から下へ。伸びたコードを眼で追うと、そこでまたも視界が遮断されて津軽は慌ててサーチを切った。
下に向かう途中。コードはそのまま下へ伸びていた。だがその下を見ようとすると何か妨害電波のようなものがあるのだろうかそこから先が見えなくなる。


(! …地下、か)


塔の内部でも頂上でもない。中心となるのはこの地下にあると津軽は思い立って、塔からではなくそのまま地面へサーチを手繰らせた。
だが見えない。この地下全体に何か特殊な遮断電波が発生しているのかもしれない。その電波ももしかしたらコードの先にある何かから発生させられているのだろうか。見えない以上これでは何も分からないままでは、ある。


「……」


津軽はしばし思案し、地面から視線を外すと通常の視界へ戻して塔の壁に両手をついた。
まだ調査段階なので人目につくのは避けたかったが、これでは目標対象であるかも判断がつかない。一旦戻って新羅に話せばサーチの改良も出来るのかもしれないが、何故か津軽はこの下にあるものがどうしても気になってしまった。それは人間で言えば衝動のようなものだが、人間ではない津軽がそれを知る由もない。
サーチで見えないなら直接辿ってその正体を見極めようと、あまり大きな音は立てないように津軽はついた手にゆっくりと力を込めた。壁がミシミシとうなり、枝状の小さな罅が出来たところで津軽はふと力を込めていた手を止めてしまう。


「…?」


なにか、こえが聴こえた。
だが周りを見回しても誰もいない。気のせいかと再度力を込めようとしたところ、また不意に津軽の耳に音が入り込んでくる。


――、――♪―――


「?」


聴こえる。
だれもいないはずなのに、どこからともなく届くだれかのこえ、が。


―♪――、――♪――――


うた、だ。
一度新羅が風呂場で歌っているのを聴いたことがある。言葉に高低の音を連ねて紡ぐ『うた』という言葉の集まり。だけど新羅のものとは違ってこの『うた』は言葉のようで、言葉ではないような不思議な音を持っていた。


「…ぁ、」


誰に見つかるともしれぬこの場面で、だがそのうたに津軽の意識は引き込まれていく。込めていた力は薄れ、気づけば両手は壁から離れてだらりと下がり落ちていた。


「…どこ、だ?」


呼ばれているようなそのうたに。どこから聴こえているのだろうと津軽は視線を巡らす。右、左、上。だが誰もいなく、何もない。
ならば。


「……下、から?」


見えない、見せないその闇の中。
うただけが彼を呼ばう。
それはまるで子守唄のようで。君よ安らかにあれ、と。今まで津軽という存在が見たことも聴いたことも感じたこともない、だけど名をつけるのならば慈しみと愛しさという見知らぬ感情を浮かばせながら……。




















〈ブギーマンはうたえない・2〉