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ブギーマンはうたえない〈2〉

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新羅もははと渇いた笑いを漏らし、津軽はどうしたらいいかわからずに眺めるだけであったが。だけど根っこはとても温かみのあるその舞台現場の人模様になにか仄痒いものを感じながらも、もらったその台本を津軽は手に入れた宝物のようにきゅっと両手にしまいこんだ。















一通りの挨拶を終え、劇場の案内やこれからの日程確認程度で解散となった。
帰り道、少々異質だがムードメーカーたる狩沢と遊馬崎、そして門田に一緒に夕飯はどうかと誘われたが、新羅と顔を見合わせた際に新羅がほんの少し困った顔を見せたので、津軽はそれを申し訳なさそうにしながらも断ることになった。
そうだ。舞台公演というのは表向きこの街に滞在する理由であって、本来の目的ではない。自分がここに来た目的は、この街を成しえている存在の破壊。昨日メンテナンスと共にインストールされた新しい情報を元にまずはその存在の探索にあたらねばならない。
昨日渡された情報の中にはその存在が隠されているとふまれた場所の幾つかがあった。街の中心とはいえなくとも、それらしき存在を隠せることができる目ぼしいところがあったらしい。くしくも公演を行う劇場を少し行ったところにそれがひとつある。計らずとも好都合な仕事場にありつけたと喜ばしく思ってもいいのかもしれない。


「津軽、僕も別方面からちょっとこの街のこと調べてみたいから、一人で行けるかい?」
「うん。だいじょうぶだ」
「よし、いい子だ。じゃあ何かあった時は連絡してね。番号も入ってるだろう? ああ、でも君の機能の中に無線機能はないから結局直接会わないとダメなんだけどね」
「………うん、?」


では何のための番号なんだろうとは素直な津軽のこと、ツッコミ力には期待できない。
じゃあと劇場を出て門田達と充分離れたところ、少し入った路地の裏で新羅と別れる。新羅の背中が路地を出て見えなくなったところで、津軽は軽く足に力を込めた。
トン、と人が軽く地面を蹴る音がして、でも津軽の身体は数メートル宙を飛ぶ。そのまま狭い路地をかたちづくっている両向かいの壁を交互に蹴りあげて上っていく。
バサリ、と夕陽に黒の布地が閃いて、ふわりと細身がビルの屋上に舞い降り立った。


「……」


街の東には海。西を見れば大きな河がありそこを境にこの一帯を『湾岸区』と呼んでいると聞いている。このビルからはその河向こうまで見ることはかなわないが、この街はそれ程大きなものではない。
では何故そんな区域が今まで放置されていたのか。そして今になって潜入し街の中心になっているナニカを壊すといっても、それによってこの街に暮らす人々はどうなってしまうのだろう。劇場で知り合ったあの人間達も、その他大勢の人間達も。
だがそれは津軽にとって自分の考えるべきところでは、ない。兵器はただ引き金を引かれて銃口の先にある対象を破壊するだけが存在意義。意見もなにも、考えることすらおかしいことだ。では何故自分に思考があるのかは、ある今の現状にそれも考えたって仕方の無いことだと知って、それで終わる。


「…あれか」


新羅の情報にあった、東外れにある高台。そこには海流を引き込んで街に電力を供給するいわば発電所のような役割をしている場所であるらしい。何故中心ではなく外れにある場所が街を形成する鍵となるのかは行ってみないと分からないし、もしかしたらそこではない可能性も十二分にある。
津軽はじっとその高台を見据え、そして自分の意識であるスイッチを切り替える。かけたサングラスの向こう、薄いスカイブルーの色を映していたその瞳の瞳孔が開き、キュンと機械的な音が立つと海のような濃い青が瞳を滲ませていく。
津軽の眼球に備わっているサーチアイ。状況によって赤外線感知や暗視、または目に見えない磁気を波の形で捉える万能な"眼"であるそれ。磁気感知に切り替えたその"眼で"その場所を見ると、高台を中心に不思議な磁場が発生していることが見てとれた。それは自然に発生しているというよりはそこから人工的に射出している様子で、十中八九なにかがあると見て間違いない。


「ふ」


身体の奥が疼く。血が騒ぐ、といえばいいのか。正体不明な高揚にかられて、津軽はほのかに口端を上げる。
平常時の穏やかな湖面のような意識が、ゆらゆらと底から沸き立つ気泡の群に煽られて静かに騒ぐように。これは兵器としての津軽自身の感覚であるのか、元々の平和島静雄であったときの感覚なのかそれはわからない。
だけど予感がする。あそこには、"ナニカ"がいる。
夕陽が沈む。外と隔絶された閉鎖的なこの街を、赤く赤く染め上げながら。












***




夜を待って高台へと赴いた。
高台には幾つか施設のような建物があり、その中でも異質な枠の太い搭のような建物が中心に建っている。そしてそれを囲むように有刺鉄線が張り巡らされていて、まるで監獄のような雰囲気さえ思わせた。高台の隣は少し行けば切り立った崖になっており、海流を引き込むという発電装置というよりはどちらかというと電波塔、もしくはもっと海沿いにあれば灯台と言った方がしっくりくる建物だ。
例えばこの塔が重要な場所だとして、そこに何も保険をかけていないとは考えにくい。案の定黒い服を着た男達が数人塔の周りをうろついたり、入り口で番をしていたりと警備体制が敷かれていた。ただの発電所にしては少々不可思議な光景。当たりだろうと津軽はひそかに頬を緩める。
津軽は近くの建物の屋上から様子を窺いながら、忍びこむにあたってやはり夜に来て好都合だったと心中で吐く。津軽にとっては夜も昼も関係はないが、人間にとっては夜の方が行動が制限されるからだ。幸い今日は空は厚い雲に覆われており月の助けも来ないだろう。
その暗い雲を見上げて、津軽はすぅと手にしていた煙管から紫煙を吸い込み肺ではなく頭に沁みこませるように瞼を閉じる。なんらかの行動を起こす前に儀式のように行うこの行為。闇の中、人に煙や火で見つかるという危惧よりも別の不安要素を打ち消すためにいつもしていることだ。
津軽はゆっくり眼を開くと、瞳はサーチアイを発動させたまま塔を見やる。磁気の波は塔の内部からうねるように流れているが、出所がはっきりしない。とりあえず近くまで行ってみるかと、津軽は煙管の火を消し懐にしまうと黒服の男が他の場所に動き始めたところで音もなくその有刺鉄線の前に舞い降りた。
カシャリと鉄線を両手で掴み、軽い動作でそれを左右に引っ張る。キシャンと耳障りな和音が響いたと思えばいとも簡単に鉄線は柔糸の如く引き裂かれてしまった。
触れた手には傷一つない。津軽の肌は特殊な加工がされており、たいていの金属では彼に傷を負わせることは不可能であろう。もし彼の肌を裂こうというのならばレーザーもしくはダイアモンド加工のナイフでも持ってくるしかない。
鉄線の柵の中に入り込み、裂いたとバレないようにわしゃっとまたその部分を乱暴に丸めた。昼であればすぐに分かったであろうが月もない今宵はまず大丈夫だ。


「…!」