眠れないのは誰のせい?
「兄さん、ほんとに大丈夫?」
「お前も心配性だなあ、アル。ちょっと寝惚けてるだけだって」
必ずもとの体に戻してやる。そう決めたあの誓いに嘘はない。喩え誰に謗られようとも、俺は進み続ける。この泥の河の先に在るものを目指して。罪に贖い地獄に落ちるのはその後でも遅くはない。その間、母さんの姿をした自分自身に責め苛まれても、己がしたことを忘れぬための防波堤とするなら、そう悪いものでもない。
「兄さん、見てよ。今日もいい天気だね」
大きめの窓から、燦々と陽光が降り注いでいる。俺はその眩しさに眼を眇めながら、翳す手の隙間に煌めく太陽を見上げた。そして、そのすぐ下の方に、まるで恥じ入るかのように薄く存在する白い月を見付ける。
微かに哂って、俺はその月にも太陽にも背を向けた。
そして今日も、闇に溺れる――――。
作品名:眠れないのは誰のせい? 作家名:桜井透子