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家庭教師情報屋折原臨也4

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 感覚的な話であるが、受験生の一年は速い。外を見れば梅雨前線の影響で一週間ほど続いている雨が、今日も降っている。換気ができないため教室内の空気が濁ってしまい、暑かった。しかも教室には熱気もこもり始めていた。こ原因は、期末考査期間突入とともに企画が始まった高校生活最後の文化祭に対するクラスメイト達の活気であった。クラスみんなで何をしようかと友人同士で話し合っている中、静雄は窓際の席で静かに、静かに予習と考査のための勉強を進めていた。クラスメイト達は連日の雨や暑さで静雄の機嫌が下降していることを自然に察知し、関わらないようにしていた。大まかに食品を扱う模擬店と決まり、後は何を作り、どんなキャッチコピーで、どんな雰囲気の店にするかを話し合っていた。
 突然教室の引き戸が荒々しく開かれるまでは。
「平和島ァッ」
そう叫び突然教室に乗り込んできたのは、先日まで停学処分を受けていた隣のクラスの生徒数名。短い学ランにサイズの大きすぎるズボンを腰のあたりでベルトで留めるという、やや古風なスタイルであった。今日も今日とて雨であったために濡れている裾が少し格好悪かった。
 彼らは周りに目もくれず真っすぐ静雄の席へと歩き、周りを囲んだ。
「テメェ何イイコちゃんぶってんだぁ?アァッ?」
彼らの苛立ちの根源は全くもって停学処分への鬱憤と一人処分を免れた静雄への恨みに対する八つ当たりであった。静雄が処分を免れた理由は主に怪我であった。本人はちゃんと直立し意識もあったのだが、頭から血を流し、左腕と右足があらぬ方向を向いていた。いつもは加害者と見られがちであった静雄だったがこの時ばかりは被害者扱いされ、停学処分を受けなかった。それでも、何の意味も持たない反省文だけは書かされた。
なにはともあれ、機嫌の悪い静雄が黙っているはずがない。そう思ったクラスメイト達は一斉に教室の外へと貴重品を持って退出した。
「オレ達が・・なくて寂しかっ・・・よなァ」
「平和島静雄に・・んな ・・・ らねぇだろ」
「 て  ・・が ・・ ・・」
「・・  ぇ ・・  ぉ・・・・」
苛立ちのあまり、静雄は次第に周りの音が聞こえなくなってきた。なぜ俺に突っかかってくる。この間の話はもう終わったことだろうに。勝手に引っ張り合いに出してこじ付けの因縁をつけてくるということはつまり喧嘩を売っていることか。俺に暴力を使わせる気か…
ぐるぐると持論が展開されていく中手に余計な力が入り、シャープペンが折れた感触がした。その時に、ふと我に返った。
「……あ、」
静雄は無残にも真ん中から折れたシャープペンを眺めた。そしてそれが今しがた込めた力のせいで折れたのだと気付いた。

――― 幽が、…幽がくれた、シャープペン……

「何だぁ?こいつ」
「シャープペン見たまま固まってッぞ?」

――― こいつらが

――― こいつらが、来なければ・・・

「あ、もうおぁッ」
静雄はすばやく手を伸ばし適当な位置にいた一人の顎を掴んだ。そのまま椅子から立ち上がり、腕を伸ばして上へと持ち上げる。
「……のに」
「は?」
「っの野郎ッ!」
後ろから殴ろうとしたもう一人に、静雄は空いたもう片方の手で裏拳を顔面に入れた。華麗に吹っ飛び、廊下側の壁に力なく激突し、床へと落ちた。
「幽から貰ったものなのによぉ…テメェ等が俺を怒らせなきゃ折れずに済んだよなぁ…」
静雄は持ちあげている一人を手早く放り投げ、服や腕を掴んできていた生徒の手を無理矢理はがし、正面から頬を殴ってきた生徒の腕を掴み軽く曲がらない方へと曲げ、さらにいまだ伸びてくる手を黙らせるため脛を蹴ってやった。それでも残った者たちはいたが、静雄に手を上げず払われた仲間の方へと向かっていった。
 席の周りはさっぱりした。静雄は折れたシャープペンをジャケットのポケットに入れ、机に出していた筆記用具を筆箱に仕舞うと、鞄を机の横のフックから外し、その中に机の中から出した教科書ノート類を突っ込み、筆箱も突っ込んで、それを持ってうずくまる彼らを無視して歩き出した。
教室を出て、ぱっと目に付いた生徒に一言。
「帰る」
そう残して下駄箱へと向かった。
 この日の静雄の備品への被害はゼロで、むしろクラスメイト達の証言により不良たちは生活指導の教員に二時間に及ぶ説教を受けることとなった。
 クラスメイト達は、教室の被害がゼロだったことよりも、始めてみた静雄の、本当に悲しそうな表情を心配していた。
――― 静雄、大丈夫かな・・・
教室内で唯一事情を知る生徒、新羅はいなくなった二つ後ろの席をみて、窓の外を見た。
 空はまだ暗く、雨足が少しだけ強くなった気がした。